祖母も母も西の山と呼んでいた。西の山にかかる雲の様子で天気を占っていた。天気占いはほぼ当たっていた。
我が家から西方を眺めると鈴鹿山脈が連なる。山並みを縦走する登山大会を近畿日本鉄道が沿線のPRに使った。七つの頂をセブンマウンテンと呼んだ。低すぎず高すぎない山々の姿には親近感がわく。若いころ、近鉄のどの駅でもセブンマウンテンを紹介するポスターが御在所岳のロープウエイとセットで貼られていたのを思い出す。
自転車で走るときにもこの山並みを眺めて走ることが多い。どの辺りを走っているのか、方角と距離の目安になる。セブンマウンテンの北の端、藤原岳と隣の竜ヶ岳からはいなべ市から桑名へ下る谷だ。その南、釈迦ヶ岳と御在所岳は菰野町から四日市方面へ、更に南の鎌ヶ岳、雨乞岳、入道ヶ岳は鈴鹿市方面へそれぞれいくつもの川が流れている。山の姿を見ながら川を渡れば、家からどれくらいの距離にいるかつぶさにわかる。
今週、今年の走り納めに走行会仲間と椿大社へ行くことを計画した。いつもの集合場所は藤原岳の裾野にあたる。そこから、竜ヶ岳、釈迦ヶ岳の麓を過ぎ、鎌ヶ岳と入道ヶ岳が大きく見え出したら山側に方向をとればどの道を行っても椿大社に着く。生憎、この日は雲行きから判断して、山裾が時雨れていそうなのでコースを変更した。鈴鹿の山並みを見ながら天候を占い、自転車のコースを自在に変えるには古くからの知恵が生きる。
山に向って走り、山に沿って進むことが多いが、未だ自転車では鈴鹿の山を越えたことがない。来年あたり、峠を越えて山の向こうへ走ってみたい。鈴鹿の山には坂口安吾の『桜の森の満開の下』で花に狂った盗賊の話や、古くは今昔物語集にも『鈴鹿山にして蜂 盗人を刺し殺しし語』など物騒な話がある。自転車で峠を越えるとしたらそれなりの覚悟がいる。
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小学校からの帰るさ 山を見ながら道草を食い いたずらもした |
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釈迦ヶ岳のお釈迦様の顔が 未だに判然としない |
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セメント会社は 藤原岳の山肌を 削りつづけている |
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季節の色には染るが 世態には染まらない |
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今でも祖母も母も 私と同じ場所から 西の山を見ていて 天気を占っている |