フォトジェニック。『コトバンク』には、「写真向きであるさま。写真うつりがよいさま」とある。ミス・ユニバースやミス・インターナショナルなど、女性の美を競うコンテストには「フォトジェニック賞」という特別賞がある。ことさら写真映えのする女性のためのプライズということか。歴史のあるコンテストでも使われるのだから、フォトジェニックということばには古くからなじみがあるはずだ。最近は「インスタ映え」と同義語にも使われるらしい。
インスタ映えのする写真を競って公開するのが流行りであるが、私には映える写真が撮れるわけでもない。ブログに写真を貼り付けて、簡単に説明をつけるだけでは、自分自身が面白くない。まずは下手くそでも文章を書くことにしている。原稿用紙に下書きをする。400字詰め原稿用紙3枚、1,200字ピッタリに書くのが努力目標、文章修行。年老いていく脳の活性化を目指す。最後の行が原稿用紙の3枚目を使い切ったところで終わるようにしたい。そのあとで、貼り付ける写真を選ぶ。佳い写真はないが、自転車の映り込んだ写真なら鑑賞に堪える。ひいき目といえばひいき目。自転車を置くだけで、ありふれた景色がいつもと違って見える。
自転車を買おうと思いついたころ、ネットで自転車の記事やカタログを漁った。自転車の写真を眺めていると、その機能美に魅せられる。自動車もオートバイも、スタイリングには惹かれるものがある。デザイナーが粋を凝らし、流行を取り入れて練り上げたデザインなのだから当然だろう。古いものにも古い時代の先端をいくデザインが反映さているはずである。自転車には、しかし、どこか違った美しさがある。車であれば、人が驚くような性能とスタイルを選ぼうとすると、その値段は優に1千万円を超える。自転車なら性能は乗り手の脚力次第、手ごろな値段のものでも十分に美しい。
自分で運転して移動するための機械なら、車やオートバイは自転車よりも断然速いが、美しさでは自転車も負けない。力を伝達する機構がすべて見えていて、圧倒的にシンプル。部品の数は車やオートバイとはくらべものにならないほど少ない。こんな単純な機械はもう進化のしようがないだろうと思っても、毎年高性能で美しいモデルが登場する。古典的で最新。単純にして繊細。無機質の機械でありながら優美。これをフォトジェニックといわずに何といおう。
この日、この場所、この時刻 私の居場所はたった一つしかない 私がいるところには自転車もいる |
景色の中に自転車を置けば 景色が私のいる場所になる 優しくやわらかな光景の中に置けば 自転車も優しくやわらかにたたずむ 硬質で殺伐とした光景にも 自転車は凛然として耐える 無骨なマウンテンバイクが自然になじむ 無機質の機械が玲瓏として背景に融合する |