冬をむかえる

冬をむかえる
'20.12.22 愛知県海部郡飛島村梅之郷 日光川排水機場付近にて撮影

2022年7月30日土曜日

ものの名前

 自転車に乗っていて見かける花や樹の色や形、咲き方や茂り具合が気になる。名前を知らない草木だと確かめたくなる。

 Googleのレンズというアプリは大変便利で、名前の判らない花や樹にスマホ内蔵のカメラを向けると、類似する写真やその名前、特徴を表示してくれる。名前がわかると愛着や親しみがわく。ただ眺めているのとは違って、愛おしく感じられるから不思議だ。

 自転車も部品の名前や働きを覚えると、チェックの仕方が変わってくる。ブレーキにディスクブレーキが使われているとする。ディスクとパッドという名称を知っていると、走る前にその部分をチェックしようという気になる。ブレーキを引くワイヤーに、インナーワイヤーとアウターワイヤーがあると知ると、ブレーキをかけるときのイメージが変わる。必要があれば、腕試しに自分で調整したり交換したりする気にもなる。

 先日、自転車の男子中学生が立ち往生しているのに出くわした。チェーンが外れたらしい。驚かさないように、どうしたのかと声をかけると、「ネジが外れたみたいです」

「これはネジではなくてチェーンといって、これでタイヤを回しているんや。おじさんが、元に戻してもいいかな」と訊いた。「はい」というので、チェーンを懸け直した。こんなとき、自分をおじさんというかじいちゃんというか、一人称に迷うところだ。

「チェーンが伸びているので、また、外れるかも知れんよ。あまり力を入れてペダルを踏まない方がいいぞ。一度自転車屋さんに見てもらったら」と言っておいた。その子が、チェーンという部品の名前を憶えて、チェーンの張り具合を気にしてくれるようになればいいと思う。

 チェーンに触ったので油で手が汚れた。見ると、その子も手を汚している。道端の雑草の葉をちぎって、手についた油を拭き取った。「君も拭いたら」と葉っぱを渡したが、そんな野蛮な、という感じで、「いいです」と断られた。「ありがとうございました」と丁寧に礼を言って、勢いよくペダルを踏んで走って行った。また、チェーンが外れはしないかと心配になった。

 雑草の名前を知っていたら、路傍の〇〇の葉で手の汚れを拭った、と書けば臨場感が出るだろう。あいにく草の名を知らなかった。そのときは、Googleのレンズで調べることもしなかった。


花を見つける
花の名はハス

橋は忘れられたようだが
この橋の先に道はあるか

橋の名が石に刻まれていて
祢佐免乃橋(寝覚めの橋)
ならばどこかに通じるだろう

走っている道には
名前も由緒もある

道標に行き先の地名があって
右阿下喜 左鍋坂朝上
それならば、また走ろう

暑いので木陰で休んだ
この場所にも
樹にも草にも
空の色にも名前がある













2022年7月23日土曜日

マニュアル通り

駅の自転車置き場に停められている自転車を時々眺める。自転車の停め方や手入れの状態を見ると、何となく乗り手の人となりが想像できて面白い。さすがに高価なスポーツサイクルは駅の駐輪場ではあまり見かけない。

無造作に駐輪場に置かれている通勤、通学用の実用自転車でも、変速機にはほとんどシマノ(SHIMANO)の製品が使われている。実用車から高価なスポーツサイクルまで、シマノ製が席巻している。

シマノの公式サイトを見ると、ユーザーマニュアルとディーラーマニュアルがダウンロードできるようになっている。ユーザーマニュアルは、自転車に乗るだけの人向けである。実際にはあまり参考にしない人が多いかもしれない。ディーラーマニュアルは自転車屋さんや、素人でもメカいじりをやってみたい人のために準備されているようだ。

例えば、変速機の各部の構造や名称と共に、着脱や整備の方法が詳説されている。どんな工具を使うかまで、説明がつけられている。ならば、そのマニュアルを頼りに丁寧に作業をすすめれば、たいがいの修理くらいは何とかなるだろうと思うのが素人の浅はかな了見。

マニュアルを頼りに部品の交換や整備、調整に取り掛かると、実際にはその通りにいかないことが多い。ちょっとしたネジの締め具合など、簡単なように思っていても勘どころをつかめないで苦労する。修理をしようと思って、マニュアル通りに作業をしているはずなのに、かえって調子を悪くすることが素人には往々にしてある。

  マニュアル通りにしか物事をすすめられないと、応用が利かないとか創意工夫がないと言われ、仕事ぶりを評価されないことがある。そんなことはない。マニュアル通りのことができれば立派なものだ。マニュアル通りにものごとをこなすのは至難の業なのだ。 

マニュアル通りのはずなのに
進退窮まることがある

思い通りに
光がさすとは限らない

思い通りに
全てが見えるわけでもない

見えないところをどう見るか

マニュアル通りと思っていても

まわっていかないこともある




2022年7月16日土曜日

安全・快適・省燃費

  『カー・アンド・ドライバー』という自動車の情報誌を毎月購読している。この雑誌は必ず発売日に書店に行って買う。最近はネットの通販で本を買うので書店に行く機会がめっきり減った。書店に行かなければならない日を決めておくのは、新刊の匂いを嗅ぎに店に入るだけでも意味がある。

 新しい車を買う予定はないし、雑誌に紹介されているような高価な車を手に入れることはとうてい叶わない。それでも、毎月、車の新しい技術やデザインに出会うだけで興味は十分に満たされるので続けて読んでいる。

 購読し続けて20年以上にもなるが、ここ数年は車の安全、快適、省燃費に関する記事が増えてきた。エンジンの出力自慢や、居住性を犠牲にしてでもデザインを優先した車が記事に取り上げられることは少ない。そういう車が少なくなってきているのだ。

車のカタログを見ても、いかにこの車が安全か、室内空間が広く居住性に優れ、快適か。さらには、少ない燃料で走行距離を稼げるか、そればかりを強調したものが多い。カーボンニュートラルの時代を目前にして、車選びの条件が変わってきているのだろう。

 安全・快適・省燃費は大事な要素ではあるが、走るのが目的の車なのに走りの要素が軽視されては面白くない。自転車は安全はともかく、快適、省燃費とは縁がうすい。装置に頼るのではなく、自分の身体と意識でそれを実現しなければならない。

 自動感応ブレーキがあるわけでもないし、雨風や暑さ寒さをしのぎ、騒音を遮って静かに快適に走るということは期待できない。省燃費といわれても、自分の体力、筋力を如何に有効に使うか工夫する以外にはない。そもそも燃費無用なのである。

 高齢者にはむずかいことであるが、お仕着せの安全・快適・省燃費に期待せず、自分の技能と気合で補完する。自動車も少し前まではそんな乗り物だったはずだ。


ここにいることに
よけいな仕掛けはいらない

ここまで来るにも
よけいな仕掛けはいらなかった

安全かどうかは自分で見定める

快適かどうかも自分で決める

仕掛けに頼らず自分で走るばかりだ




2022年7月9日土曜日

道の名前あるいは濃州道のこと

  「みえの歴史街道」というインターネットのサイトを見ると、県内の旧街道が地図に示されている。親切なことに、それぞれの街道の詳しいウォーキングマップがダウンロードできる。街道の分岐点や要所の建物、石碑などが来歴とともに紹介されている。この地図が、自転車で走るのにも便利である。

 中学生のころ、自転車通学をしていた路の一部を、大人たちが員弁街道と呼んでいた。「みえの歴史街道」では、この道が「濃州道」として案内されている。

 濃州道は桑名市の三ツ矢橋を起点に、三岐鉄道北勢線に沿うように延び、北勢町阿下喜に至る。電車道の方が街道に沿っているというべきかもしれない。この道は阿下喜からさらに藤原町へとつづき、同町の山口で巡見街道と合流して終着する。この街道の一部が中学校への通学路だったわけだ。

 今も、自転車で桑名方面に行くにも、いなべ市を通り抜けるにもよく通る道だ。交通は閑散としていて、鄙びた沿道の風情に心が和む。何とはなくゆっくりと走りたくなる。この道が「濃州道」と呼ばれた旧街道とは今の今まで知らずに走っていた。

 道の名前を知ると、これまでの風景が変わる。ウォーキングマップの解説を見たからではない。「濃州道」を、今、走っているのだと思うことで気の持ちようが変わるのだ。

 濃州、岐阜県の南部をいう。そこへつづく街道なので、濃州道と呼ばれたのだろう。この道を自転車で走れば、馬に乗った侍や旅の行商人、飛脚や荷を積んだ馬車と今も往き合うような気がしてくる。

 琵琶湖畔のサイクリングロードだ、遠くは瀬戸内のしまなみ海道だといって、自転車乗りは憧れ、騒ぐ。誰もが走りたくなる風光明媚な道が気になって、家の近くの由緒ある街道を、そうとは知らずに走っていたり、走りもしないでいるのはいかにも迂闊である。

濃州道と巡見道はここで出会っている
道はむかしから毎日出会い続けている

道は毎日出会い
毎日別れている

古い街道を行けば
古い時代にさかのぼる

古い街道を行くと
新しい時代にめぐり会う

この道は
役人を乗せた馬も通るし
ハイブリッドの車も通る

街道が混み合うときは
足をとめて喉を潤す 



2022年7月2日土曜日

梅雨明け記念一人走行会

 梅雨があっけないほど簡単に明けた。例年よりも3週間も早い梅雨明け宣言だという。6月だというのに、梅雨明けと同時に焼けるような陽ざしが恐ろしい。喜び勇んで自転車で飛び出すことがためらわれるような猛暑だ。

 熱中症警戒アラートが発令され、戸外での運動は原則禁止。学校では、校外見学や授業中に熱中症で救急搬送された児童や生徒のいることもニュースになっている。しかるをいわんや高齢者をやというところか。

 そうはいっても、気持ちの良い快晴。少し遠出をしてみたいと虫が騒ぐ。休憩と水分をたっぷりとりながら、無理なく走れば大丈夫と自分に言い聞かせて出かけることにする。

 梅雨明け記念の一人走行会ということで、目的地を選ぶとすれば海だろう。帰路の風向きを調べて出かける。帰りに追い風を受けられるように走れば、多少長い距離を走っても余裕がある。選んだのは白子から津の海岸線を海を見ながら走るというコース。今年になって1日に100㎞を走る機会が少なくなっているのでちょうど良い。

 午前中は休憩と水分を適度に取りながら、津の海岸まで50㎞を快調に走る。昼食を食べて折り返す。午後になると、陽ざしはさらにきつく、遠くへ来すぎたかとやや不安になる。体温が上がり過ぎているかもしれない。コンビニで買った氷で、身体の外と中から冷やす。冷房が効いたコンビニの店内から出たくない。予報通りの追い風に背中を押してもらわなければかなり厳しい。

 休憩の間に走行会の仲間に海で撮った写真を送ったら、「改めて確認しますが、我々は70歳を超えています。くれぐれもご自愛ください」という返信が届いた。

 梅雨明け記念などとうそぶいているのもいいが、この時期、自転車に乗るには相当の用心が必要であると思い知った。毎年、梅雨明けを迎えると若返った気がするけれど、実は年齢を重ねているのだ。 

海も空も晴れていると思えば
出かけないわけにはいかない

今日が今年の梅雨明けの空
ここが今年の梅雨明けの海

梅雨が明ければ
海の向こうへも
自転車で渡れる

今頃は川岸でも梅雨が明けて

今頃は山にも夏が来ている