自転車に乗っていて見かける花や樹の色や形、咲き方や茂り具合が気になる。名前を知らない草木だと確かめたくなる。
Googleのレンズというアプリは大変便利で、名前の判らない花や樹にスマホ内蔵のカメラを向けると、類似する写真やその名前、特徴を表示してくれる。名前がわかると愛着や親しみがわく。ただ眺めているのとは違って、愛おしく感じられるから不思議だ。
自転車も部品の名前や働きを覚えると、チェックの仕方が変わってくる。ブレーキにディスクブレーキが使われているとする。ディスクとパッドという名称を知っていると、走る前にその部分をチェックしようという気になる。ブレーキを引くワイヤーに、インナーワイヤーとアウターワイヤーがあると知ると、ブレーキをかけるときのイメージが変わる。必要があれば、腕試しに自分で調整したり交換したりする気にもなる。
先日、自転車の男子中学生が立ち往生しているのに出くわした。チェーンが外れたらしい。驚かさないように、どうしたのかと声をかけると、
「これはネジではなくてチェーンといって、これでタイヤを回しているんや。おじさんが、元に戻してもいいかな」と訊いた。「はい」というので、チェーンを懸け直した。こんなとき、自分をおじさんというかじいちゃんというか、一人称に迷うところだ。
「チェーンが伸びているので、また、外れるかも知れんよ。あまり力を入れてペダルを踏まない方がいいぞ。一度自転車屋さんに見てもらったら」と言っておいた。その子が、チェーンという部品の名前を憶えて、チェーンの張り具合を気にしてくれるようになればいいと思う。
チェーンに触ったので油で手が汚れた。見ると、その子も手を汚している。道端の雑草の葉をちぎって、手についた油を拭き取った。「君も拭いたら」と葉っぱを渡したが、そんな野蛮な、という感じで、「いいです」と断られた。「ありがとうございました」と丁寧に礼を言って、勢いよくペダルを踏んで走って行った。また、チェーンが外れはしないかと心配になった。
雑草の名前を知っていたら、路傍の〇〇の葉で手の汚れを拭った、と書けば臨場感が出るだろう。あいにく草の名を知らなかった。そのときは、Googleのレンズで調べることもしなかった。
花を見つける 花の名はハス |
橋は忘れられたようだが この橋の先に道はあるか |
橋の名が石に刻まれていて 祢佐免乃橋(寝覚めの橋) ならばどこかに通じるだろう |
走っている道には 名前も由緒もある |
道標に行き先の地名があって 右阿下喜 左鍋坂朝上 それならば、また走ろう |
暑いので木陰で休んだ この場所にも 樹にも草にも 空の色にも名前がある |