初乗りのつもりで、今年初めてクロスバイクに乗ったら、変速機を操作するワイヤーがプツリと切れた。何の前触れもなく、変速装置のレバーが効かなくなった。慣れた操作の手ごたえが急に変わると、本能的に危険を感じる。
昔の自転車は鉄の細い棒でリンクを使ってブレーキを引っ張っていた。変速機はなかった。今は金属のワイヤーでブレーキを引く。変速機もワイヤーを引いたり緩めたりしてギアを替える仕組みである。
最近は、油圧を使ってブレーキをかける仕組みや、変速には電気式のものもある。スイッチを入り切りする要領で、重いギアや軽いギアに切り替える。システムひと揃えで20万円もするので、高級な自転車が十分買える。自転車もワイヤーレスの時代である。私のクロスバイクは旧来のワイヤー式なので、そのワイヤーが経年劣化や、過剰な力を加えることで切れてしまう。
下駄の鼻緒が切れるのは縁起が良くないという。野辺の送りで死者を火葬するときに、送る人が履いていた下駄の鼻緒を切って、一緒に燃やす習慣があった。黄泉の国から悪霊がその下駄をはいて蘇えらないようにというまじないらしい。まるでゾンビの世界である。下駄の鼻緒が切れるのは、葬送につながるので凶兆とされた。
変速機のワイヤーが切れるのも、気分は最悪である。しかし、これは凶兆ではない。変速機のワイヤーが切れても、難儀さえ承知なら走りつづけることはできる。特に前のギアの場合は、ワイヤーが切れると一番軽いギアで固定されてしまう。スピードは出ないが、それほど無理なく走れる。後ろのギアは、構造上、一番重いギアを使う位置に固定される。かなり厳しいが、走れなくはない。
もしもブレーキのワイヤーが切れたら、これは命取りだ。急な坂を下っているときに、ワイヤーが切れようものなら、大事故につながることは必至である。一般に変速機のワイヤーは直径1.2㎜のものを使い、ブレーキには1.6㎜のものが使われる。ブレーキのワイヤーの方が太いのは、大きな力で確実にブレーキを効かせるためだという。劣化すれば、変速用の細いワイヤーが先に切れる。そのときには必ずブレーキのワイヤーも新しいものに取り換えれば、劣化による切断は未然に防げる。
ブレーキのワイヤーが切れる前兆を、変速ワイヤーが切れることで教えてくれる。そう考えれば、初乗りでワイヤーが切れてくれたのは吉兆だった。とはいえ、いつも安全第一で自転車に乗ろうとすれば、ワイヤーが切れて吉兆などと喜んでいてはいけない。どのワイヤーも切れる前に交換しておくのが最善策なのだ。1万㎞または1、2年も使えば交換すべきなのだ。年初めのメンテナンスは、今ある自転車全てのワイヤー交換から始めることになりそうだ。
知り合ったころ 初々しさがある |
知り合って時間がたって 今ではいい相棒だ |
相棒となら どこへでも行く |
こんなに細いもので つながっていれば 切れることもある |
切れたら 修復すればいい |
部品を買い込んだ お祭り騒ぎだ |
慌てることはない つなぎ直しには いつだって時間がかかる |
修復ができたら またどこへだって行ける |