'25.10.3 一本の柿の木

2020年4月18日土曜日

ジャスミンのマスター


 仕事を辞めて、家にいる時間が増えた。時折、妻と連れ立って、外で昼食を摂るようになった。家から少し離れた、いなべ市にある「ジャスミン」というカフェのランチが気に入って、何度か出かけた。

 常連というほど頻繁に通うわけではないが、マスターは私たちの顔を覚えて、挨拶をしてくれるようになった。レジで支払いをするときには、奥の厨房からひょいと顔を出して、声をかけてくれる。お昼どきにはいつも満席になるので、マスターは大忙しで、手のあくいとまはないはずなのに、どうやって客を見ているのか。客席にまでよく目が行き届くものだ。
 顔見知りとはいえ、客の顔を覚えてもらっているという、それだけのことである。ところが、マスターとは、その後ひょんなきっかけで話をすることになる。

 先年、私の妹が癌で亡くなった。64歳という若さで、これからのんびりと生活を楽しめると思っていた矢先。人生の元が取れないうちに逝ってしまった。辛い話ではある。
 ジャスミンのマスターは、妹の告別式に参列してくれていた。式場で私が遺族の席にいたのが目にとまったらしい。後日、店に行くと、マスターに故人との関係を尋ねられた。私が兄であると名乗ると、マスターは小学生のとき、妹に担任をしてもらったと、懐かしそうに思い出話をしてくれた。近しく話したのはその時が初めて。束の間ではあったが、マスターのやさしい人柄が伝わってきた。妹の教え子だということが判って、親近感がわいた。

 そのマスターに、次は町中で出会うことになる。阿下喜(あげき)という坂のある古いを走っていると中の交差点で信号待ちをしている自転車があった。速そうなロードバイクである。私がクロスバイクで並びかけると、その横顔がどこかで見覚えのある人物。サングラスではっきりしないが、若いころの谷村新司にどこか似ているジャスミンのマスターにまちがいない。この時も、マスターから声をかけてもらった。
「バイクに乗ってえるんですねぇ」
「へぇ~、マスターも乗ってるんですか」
「最近、はまってしまいまして…」
 乗っている自転車も違えば、乗り方も違う、歳もマスターはうんと若い。それでも、自転車で出会ったというだけで、ぐっと距離が近づく。旧知の間柄のようだ。
「機会があれば、一緒に走りたいですね」
マスターは、気軽にそう言ってくれるが、私の実力ではついて行けそうもない。一緒に走るのは無理かもしれないが、自転車に乗る歳の離れた知り合いができるのは嬉しい限り。
 マスターは、週1度の店の休みにしか自転車に乗れないのが物足りないようだ。ジャズの流れるシックで落ち着いた雰囲気の、それでいて気軽に立ち寄れるカフェを切り盛りするマスター。きっと、自転車にもお洒落で気取らない乗り方をするのだろう。

 ※ ジャスミンのマスターに断りなく、書きました。
   ジャスミンのマスター、このページを見られて、全部NG、または部分的に
   NGのところがあれば、ご連絡ください。すぐ、抹消します。


大きな看板で、店はすぐにみつかる          
入り口にはサイクルラックも設置されている      
昼どきは、駐車場は満車、店は満席になる       
ランチにはちょっと早めか、少し遅く行くのがお勧め  
写真では、ランチのメニューがよく判らないが、    
「食べログ」ではなく「チャリログ」なので…      
リーズナブルでおいしいランチが味わえる       
珈琲ももちろん絶品                    
  ジャスミンの裏庭のような「いなべ公園」         
  店から自転車なら5分、風光明媚               

「いなべ公園」の池をめぐると、こんな場所も…    
徒歩でも自転車でも、散策には最適           
ついでながら、拙宅の生垣にはカロライナジャスミンの花が咲く
香りはいいが、これはジャスミンとは似て非なるものらしい  

3 件のコメント:

  1. 僕がおやじのあとを継いでジャスミンをやろうと決めたのは小5でした。調理実習でサンドイッチを切っているとき さすが後継ぎ!と声をかけてくれた恩師 まだ声まで覚えてます
    思い出せばいまだに涙が出ます
    僕の人生ではおおきな存在です 今も。
    亡くなられてお兄さんと親しくならせていただいて‥力強いです
    喫茶店はずっと続けようと 恩師の諦めないという教えのもとに。

    お店の宣伝までしていただきありがとうございます
    文字読むのは好きな方ではないですがいつも楽しみに読ませてもらってます
    是非是非一度一緒に乗りましょう

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  2.   ジャスミンのマスターのコメントに、ジンときました。人生を決めた言葉とありますが、おそらく毎日の学校生活のなかであなたと恩師との絆が深まっていいき、その思いになったのだと思います。素晴らしい先生に巡り合えたこと、本当に幸せですね。
     私は20代のころ、MARIOさんとジャスミンに出かけては、ジャズを聴きながら他愛のないことを話しあかしたことを覚えています。店の雰囲気が好きで、今もときどき寄せてもらっています。先代からお二人の息子さんに継がれた喫茶店は、地元には欠かせない存在です。ぜひこれからも、来店された方がゆっくりできて気もちが和らぐ空間であり続けてくださいませ。

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  3. マスターのことやコメントの内容を、妹にメールで知らせてやったら、
    「ふぅ~ん、そんなことがあるんやねぇ」
    と、例のゆったりした口調で言うかもしれません。
    いい供養になります。

    ブログは、独りごとのつもりで書いているところもあって、たくさんの人の
    目に触れなくてもいい、と思っています。
    ていねいに読んでくださる人があって、とてもうれしいです。

    べーえんべーさんと昔よく行った、国道沿いの方の「じゃすみん」の
    お店、私も、ときどき行かせてもらっています。
    いろいろなところでつながっている、人や場所を大切にしたいです。
     
    マスター、せっかくの定休日がこのところ雨続きで、ちょっと残念ですね。
    次は、きっと晴れる、と思いたいです。

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