冬をむかえる

冬をむかえる
'25.1.22 山を見て走る

2021年2月13日土曜日

地図を読む

  ジェイムズ・ボンドは一世を風靡したスパイである。イアン・フレミングの原作には1953年に初登場、映画第1『ドクターNOは中学生の頃に観た。当時は『007は殺しの番号』という物騒な邦題で劇場公開された。1964年公開の第3作『ゴールドフィンガー』でボンドの乗るアストンマーティンDB5にはナビゲーションもどきの装置が搭載されていた。時代の最先端である。ボンド映画に登場する最新の機器にはわくわくのしどうしだった。

 ボンドがハイテクのスパイグッズを優雅に使いこなす古いタイプのスパイだとすると、ジェイソン・ボーンは全く新しいタイプのスパイ(両者ともイニシャルはJ.B.)である。第1作『ボーン・アイデンティティ』で銀幕に初登場する。ボーンは、彼自身がスパイグッズであり、武器である。翻訳機を使わなくても、外国語を自由に操る。身近なアイテムを通信機や武器に作り変え、使いこなす。ナビが必要なら、彼自身が地図を記憶にインプットしてしまう。

 ボーンはCIAの暗殺計画に失敗して、証拠隠滅のために命を狙われる。同業の暗殺者に襲われ、行く先々で地元警察からも追われる。パリで警察官に追いかけられるシーンでは、逃走の直前にパリの市街地図を読み取って記憶する。彼は脳裏に刻まれた地図を頼りに自在に逃走経路を見つけ出す。逃走車は最新装備満載のアストンマーティンやTOYOTA 2000GTではない。今にも壊れそうなミニを巧みに操る。第二作『ボーン・スプレマシー』でも、ナポリからベルリンまで古いメルセデスベンツでの逃避行の途中、ミシュランの地図を助手席に広げ、走りながら道路網を覚え込む。ベルリンの市街地図も瞬時に記憶する。

 私の自転車は、国境を越えて走るわけではない。猛スピードで何かを追ったり追われたりすることもない。自転車で走るたかだか100㎞くらいのコースは、地図に頼らなくても覚えてしまいたい。ボーン流を真似て、走りたい場所の地形を前日に地図で読み取る。但し、瞬時にという訳にはいかない。実際に走り始めたら、ランドマークをつなぎながら地図を見ないで走る。自転車に乗り始めた頃から、地図は記憶して、走り始めたら見ないことに決めている。思わぬ史跡などに行き会って、得した気分になることもあるが、ときには見当ちがいの道に迷い込み、焦りながら地図を確認する事態も出来(しゅったい)する。ジェイソン・ボーンになるのは難しい。

 映画のヒーローの地図の読み方を真似て自転車に乗る。子どもの頃に、自転車を月光仮面まぼろし探偵のオートバイに見立てて乗りまわしていたのと、ちっとも変っていない。映画『大脱走』の終わりに近いシーン、スティーブ・マックイーン演じるヒルツ大尉は、ドイツとスイスの国境の柵をオートバイの大ジャンプで越えようとする。それを真似て、オフロードバイクでジャンプの練習を繰り返したこともあった。地図を読み、ヒーローになったつもりで自転車を漕ぐ。バーチャルリアリティの世界は今に始まったものではないし、コンピュータの中だけのものでもない。


街の中を地図を読まずに走る
何だか懐かしい気がする街並みに出会う
場所は記憶の地図に記しておく

自転車のよく似合う通りを行く
記憶の地図に書き込んでおく

地図を読まずに走っていたら
信長さんに出会った

秀吉さんにも出会った

別の記憶にある地図の中で
生まれたばかりの信長さんに
出会ったこともある

一夜城の跡では
秀吉さんと再会した

人生の地図や時間の地図を
行ったり戻ったりして
自転車に乗っている

鳩も記憶に読み込んだ地図をたよりに飛ぶのか
ヒーローにあこがれて飛びつづけるのか


鳩にも自転車乗りにも
記憶の中に読み込んだ
人生の地図や時間の地図はある

やり残してしまったことや
いつかやってみたいことや
忘れてしまっていることや
鮮やかによみがえることや
ついに行けなかった場所や
これから出かけたい場所や

記憶の中の地図には
ルートがひかれている
定点がしるされている

鳩は双の翼で
自転車乗りは双の銀輪で
記憶の平面にひろげられた
人生の地図や時間の地図を
行ったり戻ったりしながら
飛んだり走ったりしている




2 件のコメント:

  1.  ジェイソン・ボーン。3作とも展開が早く、ましてや字幕を読みながら映像を追うので、神経を研ぎ澄ましていないと訳が分からなくなります。
     でも英語の勉強になりますね。市街地の地図を瞬時にインプットして、次の行動へうつす。何であんな狭い路地を自在にすり抜けられるのだろうと思ったら、すでに地図が頭の中にあるのですね。
     カーチェイスがとてもかっこいいですが、WRCのような迫力で肩が凝ります。MARIOさんの冒険心、好奇心をくすぐるでしょう。
     映画館だと見直しができないので、私の場合、DVDなどで繰り返し観て、
    ようやく本物の良さがわかるというところかな。

     尾張が誇る戦国武将、信長や秀吉の記念碑(メモリアル)、自転車に乗りながらよく見つけましたね。とうとう尾張まで守備範囲ですね、すごい!
     鳩の飛び立つ瞬間の写真、合成ではないですよね。大須観音のように大勢の鳩がいる中で写したのではなく、一羽しかいない鳩を一瞬のシャッターチャンスで捉えるとは、さすがです。

     JPS仕様?のロードバイクが各々の風景に心地よく溶け込んでいます。
     最後の詩、私の解釈が合っているかわかりませんが、イメージが広がります。

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    1. J・ボーンのようにはいかなくても、地図は記憶にとどめておいて、あとは自分の勘や街の匂いのようなものを頼りに走っていると、思わぬものが目に留まることがあるのかもしれません。自転車に乗っているからこそ発見することやものがあるような気がします。目的を決めてそこに向かってまっしぐら、というのでは見えるものも見えない…ということかもしれません。

       詩とはいえないようなものですが、断片くらいは書き留めておくのもいいかなというくらいです。少しずつ詩が書けたらいいとは思っているのですが…。ラフスケッチのようなものでしかないですね。それでも、何かイメージを広げてもらえれば嬉しいです。

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