春は別れる。送って、送られて、学校でも仕事場でも別れる。卒業生を送る。級友と別れる。退職する人や人事異動になる人たちを送る。自分が送られたこともある。
春は出会う。迎えて、迎えられて、学校でも仕事場でも出会う。新入生を迎える。新しいクラスメートに出会う。先生に出会う。新入社員が着任し、新しい同僚にも出会う。自分が迎えられる春もあった。
別れるさみしさと、新しい出会いへの緊張と不安、期待。教員という職業を選んだので仕事場も学校だった。学生時代と同じ気分で春を迎えていた。50年以上も、春は人に別れ、春は人と出会ってきた。
学校を卒業して、仕事もしなくなって10年ちかくになる。別れや出会いと無縁の春がつづいている。春の別れがさみしいよりも、春の別れがないことがさみしい。出会いがないのはもっとさみしい、はずではあるがそうでもない。
春に浮かれて、自転車に乗り出す。春の別れや出会いの喪失感は年々薄れる。先週は、またまた椿大社まで走った。走行会の仲間にそのことをメールする。「またかぁ」とか「椿さん好きやなぁ」という返信があるが、行き先はどこでもいいのだ。
冬の間、自転車で走り出す前には身繕いが要った。ダウンジャケットに手袋、厚手のソックス。ヘルメットに重ねて帽子。マスクに耳当て。
あたたかくなれば、それがいらない。着の身気のままで外へ飛び出す。自転車のペダルは軽く、乗り心地まで柔らかくなった気がする。気の早いウグイスやヒバリの鳴き声、梅の開花、桜の幹の色づき。道端の土筆、水仙。
学校を卒業し、仕事を辞し、春に浮かれる気分までなくなるのではないかと心配していた。杞憂だった。大丈夫、春の気分の大転換。自転車が新しい春との出会い方を教えてくれている。
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いつ春をむかえればいいのか 決まっているわけではない |
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どこで春をむかえればいいのか だれかが決めたわけではない |
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どうやって春をむかえたらいいか マニュアルがあるわけでもない |
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花が咲けば春 風が吹けば春 くしゃみをしても春 |
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別れを忘れ 出会いも忘れて 春に浮かれている |