自転車事始

  中学の教員を60歳で定年退職した。最後に勤務していた中学校の校区にある公民館へ再就職で勤務することになった。公民館長というと聞こえはいいが、体のいい小間遣いである。公民館の管理を任されているとはいうものの、掃除や備品の修理など雑用も多い。

　ある時、玄関の掃除をしていて、公民館の囲碁のサークルに通う内藤さんという人の自転車が駐輪場に停めてあるのが目についた。ほかの自転車の間で、ひときわ目立っていた。塗装が際立ってきれいである。タイヤが極端に細い。見た目にも恰好がいいので興味がわいた。内藤さんは、車の運転をされない。名古屋まで自転車で行ったり、菰野まで行って御在所岳に登ったりされるとのことである。鼓ヶ浦まで自転車で行って泳いでから帰ることもあると聞いた。自転車歴を訪ねると、64歳でリタイアしてから始め、7年になるそうである。現在71歳。年齢を感じさせないライダーである。

　

　内藤さんの自転車は持ち上げてみると非常に軽い。視覚を裏切る軽さである。実用自転車しか触れたことがないので、スポーツ自転車の軽さを予測できなかった。内藤さんの自転車はトレックのFXだろうと思われた。内藤さんはメカにはあまり詳しくないようで、乗ることについてだけしか話は聞けない。

　

　ネットでスポーツバイクのことを調べてみたのは、公民館に勤務して初めての夏休みのころであった。勤務する公民館からそれほど遠くない「クワトロ」という大きなバイクショップに実物を見に行った。試乗も可能ということで、クロスバイクとロードバイクに乗らせてもらった。実際に乗ってみると、ペダルを踏む感覚と前に進む速度やレスポンスに違和感をもった。速すぎる。これまでに乗った実用車とは異次元の速さ。自転車とは思えない乗り物である。自分で推進力を生み出さなければならないので、オートバイとはもちろん違うが、体感する速度はオートバイに近い。

　

　気軽に試乗させてくれた若い店員さんに相談して、早速、クロスバイクを買うことにした。ブリヂストンのクロスバイク、アンカーに決めた。
　その後、ネットでいろいろな自転車を見ているうちに、迷いが出た。初めての自転車は安価なもので良いと考えた。多少の調整は自分でも出来ると判断して、安いものをネットで購入することに決めた。「クワトロ」で注文した自転車は、キャンセルさせてもらった。申し訳ないことをしたが、その後のことを考えると良い判断だった。

内藤さんのと思われる自転車　TRECK FX7.2

初めて手に入れた自分自転車　ブリヂストン　アンカーUC５（ブリヂストンカタログより）

　　　　　　　　　　　　　　　　　写真：ブリヂストン自転車カタログより