省エネという言い方には違和感を覚える。エネルギーの使用量を節約するということなら、節エネだろうけれど、これも語感が良くない。節水は掛け声になるが省エネや節エネには緊張感がない。用語や名称を省略して使うのは難しい。最近しきりに使われるオリパラのごときは、オリンピック・パラリンピックがゲームソフトかデザートの一種のように聞こえてしまう。
ともあれ、省エネということばはすっかり定着しているので、そのまま使うとして、自転車の省エネを考える。自転車の省エネの要素は、空力と重力、それに摩擦力である。空気の抵抗を減らして、車体を軽くする。あとは回転部分の摩擦を減らせば、自転車は楽に速く走る。乗る人の使うエネルギーを節約できるという理屈だ。
本格的にスピードを競うレースでは、グラム単位で自転車を軽量にするらしい。フレームの材料や構造はもちろん、ギアやチェーン、それにサドルなどの各部品も徹底的に軽くする。身に着けるウエアやヘルメットも軽くする。アマチュアの自転車乗りでも、ほんの数グラム軽くするために何万円もかけるという話を聞く。車体の総重量がわずか7kg程度になるらしい。回転する部品の摩擦を減らす工夫や、空気を切り裂くためのデザインにも心血が注がれる。
あるとき立ち寄った自転車屋の、私と同年輩のおやじさんが、自転車の整備や調整のノウハウを教えてくれた。私が、自己流でオートバイの整備などしていたことはあるが、自転車は奥が深いというと、我が意を得たとばかりに延々と話が続いた。オートバイをいじっていた人には、ネジを90度まわす、180度まわすという自転車の微妙な調整が難しい。ネジを闇雲にまわして、調整を狂わせフレームを歪めると力説された。オートバイだって、キャブレターの調整などは微妙だったけど…と思いながら聴いていた。
最近あまり乗る機会がないといって、おやじさん愛用の自転車を見せてくれた。高価なカーボンのフレームで部品の軽量化にもこだわった1台とのこと。お金をかけた分は速く走れるようになるか尋ねてみた。一番知りたいところである。果たしてその返事は、実際には思うほど速くならない。手をかけた高価な自転車に乗っているという優越感で、多少は自転車が速くなったように感じる。メンタルの要素が大きい。脚力を鍛える方が大事、というものだった。なるほど、そういうものかと大いに合点(がてん)がいった。
カーボン製の軽いフレームや軽快に回る部品、風の抵抗を減らすウエアを手に入れても、メンタルを左右する程度の効果しかない。少しでも高額の自転車や部品を売りたいはずの、おやじさんの正直な結論である。だとすれば、私のような高齢で平凡な自転車乗りの省エネ対策は、せいぜい体脂肪を燃やして、あとは余分な物を持たないことくらいか。
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先週、雪が積もった 雪を見ながら走った |
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少し雪の深いところまで行ってみた |
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雪が車輪に凍りつく 走るほどに重くなる 生きるほどに重くなる 余計なものは削ぎ落すことだ |
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先週、あまり人の来ない池を見に行った |
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池を巡り、ぬかるんだ道に乗り入れた |
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泥が車輪についてくる 走るほどに重くなる 生きるほどに重くなる 余計なものは捨てさることだ |
寒いのでいっぱい着込んで乗っている 軽量化も空力特性もあったものではない おまけに自転車にはいっぱい積んでいる 省エネとは削ぎ落すこと… とはいえ、気持ちも身体も寒すぎては困る ※ 愛車の軽量化や部品の交換が功を奏し、速くなった、快適になったという人の 話も聞きます。愛車精神が走りを変える。それももちろん有りだと思います。 |
こんにちは。今回もとても面白く興味深い内容で、楽しく読ませていただきました。冬景色のなかでの自転車、輝いています。
返信削除自転車屋のおやじさんの本音が、説得力があります。どれだけ高価でも、実感できる差は、微妙な数値でしかない。俺はここまでのめりこんで追究しているんだという自負心と優越感が、最も大きな差なんでしょうね。
私としては今ある普及版で、のんびり走ることで満足します。
自分の無駄な体重を減らすことと、ネットでのウインドーショッピング?が、省エネのスタートかなと思って。
おやじさんの語り口にはひかれるものがありました。若いお客には、多分違ったアドバイスがあるのだと思います。性能を上げるノウハウや部品の交換で得られる効果などを教えてくれるかもしれません。私の自転車との関わり方を見抜いたうえで、むやみにお金をかけずに、今のままで楽しめばいいという損得抜きのアドバイスをしてもらったような気がします。
削除相手のニーズや実力を見抜いたうえで、適切なアドバイスをする。プロフェショナルの極意だと思います。
実力以上のものを求めないこと、無用の高価なものに手を出さないこと。まさに省エネの薦めですね。