師走ともなれば、スーパーやホームセンターでは季節商品として掃除用具が目立つところに並べられる。車の洗車グッズも同じような扱いを受けている。陳列棚を見ていると、「鏡面仕上げ」と銘打ったワックスがある。自動車用のワックスにも家の床用のものにもある。「激ツヤ」「高光沢」などと外箱や容器に大書したものもある。それらのワックスを使えば、鏡のように表面がきれいになり、驚くほどの艶がでるというアピールだろう。
息子が小さかったころに、「父さんは鏡面仕上げが好きやね」と言っていたのを思い出す。どうせワックスをかけて磨くなら、艶が際立って、光沢が冴える方が磨き甲斐がある。磨けば即結果に現れるので気持ちがいい。鏡面仕上げに憧れる。
とはいえ、本当に光沢を出そうとすると、なかなか一筋縄にはいかない。何を磨くときでも、下地をきちんと整えて、汚れを落としておくことが大事である。汚れの上からワックスを引いても、うまく塗膜ができないので、きれいな艶は得られない。高価なワックスを買って、簡単にきれいな艶を出そうとしても思うようにうまくいかない。
父は、98歳になる今も革の鞄を磨いている。手や腕の運動になるらしい。高価なワックスは必要ないという。ぼろ布で表面をこすり、ブラッシングを繰り返せば、革は光るというのが口癖である。下地をならして磨けば自ずと光沢は出る。ラジオを聴きながらせっせと鞄を磨く。リウマチで変形した指で器用にブラシを使って磨く。父の磨いた鞄の艶には深みがある。光らせようと思って磨いたのではなく、磨くという行為を楽しんでいる結果が深い光沢になる。
自転車の車体は面積が小さいので、磨くのに時間はかからない。だからといって、簡単に終わらせるのではなく、だからこそ時間をかけて磨けば、フレームもリムも、チェーンなども見違えるようにきれいな艶がでる。
汚れがひどければ、洗剤やコンパウンドを使って下地を綺麗にする。それからワックスをかけておけば、しつこい汚れがつかない。普段はワックスを拭き取るときに使う布で、軽く表面を磨けば光沢は蘇る。磨くともなく磨く。チェーンなどは注油をしてしっかり拭っておけば光沢を帯びて、これが乗り心地にも関わるから侮れない。
いくつになっても、自分を磨くことも大切だとは思うが、これは鞄や自転車を磨くように簡単にはいかない。下地を整えて、ということは、生き方を根元から見なおして、磨かなければならないのだから、一朝一夕にできることではない。
この歳になって、自分を磨いてもそれほど光るとも思えない。父の鞄磨きのように、気張らずに力を抜いて、自分を磨くことを楽しめばいい。ひょっとしたら、深みのある艶が出るかもしれない。鏡面仕上げを目指すのは、愛用の自転車だけでいいだろう。ついでながら、年末の大掃除には床磨きもしたいとは思っている。
あなたが光を映さなければ あなたの姿はわからない |
あなたが光の波長を決めないと あなたの色はわからない |
あなたが闇にしずんでも わたしの指先はあなたの形を わたしの網膜はあなたの色を きっと覚えているだろう
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磨く、とひと言でいってもいろいろあるのですね。
返信削除物体の外観を綺麗にするだけでも下地からの処理を丁寧におこない、ようやく表面の艶出しへと。
ましてや心を磨くなんて、今の自分にはとうてい無理です。
三つ子の魂百まで、子どもの頃に出来上がった性格や品性、情緒などなかなか改善するのは難しい。
でもこれからの生き方を少しでもマシなものにして余生を送るには、この歳でも今の自分を見つめて成長させなければいけませんね。そんな意味でもMARIOさんのお父様を見習いたいです。
今回の詩は、無茶苦茶カッコいいですね。詩ができて、そこへ画を当てはめたのか、そう思いたいです。
詩の流れと写真がピッタリ合っているのが、素晴らしい。歌謡曲は作詞家のイメージを、作曲家が自分の感性で作り上げる。
MARIOさんは、それを一人で完成させるのだから、芸術家といえます。日々是鏡面仕上げかな。
いつもコメントをありがとうございます。
返信削除自転車で出かけたときに写真を撮ることが多いのですが、その中からから、文章とあまりかけ離れていないものを選んで紹介しています。反対に、撮りためた写真を見ていて、書いておきたいことを思いつくこともあります。
写真の撮影場所や日時を書くのでは面白くないので、写真のイメージをメモするつもりで、簡単な言葉を添えているつもりです。メモが説明的な硬いものになったり、イメージを壊してしまったりすることもあるようです。
いろいろな読み方や写真の見方をしてもらえたら嬉しいです。
仕事や興味のあることを一所懸命にやっていることが、実は自分を磨くことになっているのだろうと思いたいです。あまり本気で磨こうとして、擦り減ってしまっても困ります。