懐かしい映画である。というか、懐かしさを醸し出している映画である。三部作を改めて全編観た。映画に描かれる昭和の夏は今ほど暑くなかったのか。夏の場面では扇風機が主役で、冷蔵庫は氷の塊を使用するものが登場する。
時代設定は東京タワーが完成間近の昭和33年。物語の中心になる鈴木オートという自動車修理店の長男一平は下町の小学生だから私と同い年くらいだ。映画の中の一平と私は同じ時代を生きている。
映画が撮られたのは平成17年なので、後付けでこしらえた「昭和」感は否めない。石原裕次郎や小林旭が活躍する本物の昭和時代や、『男はつらいよ』第1作のころのようなありのままの「昭和」とは少し違う。あえて作った「昭和」だからこそ強調されていて面白いところも随所にある。
中学を終えた星野六子は集団就職で上京し鈴木オートに勤める。履歴書の特技欄には自転車修理と書いていた。個人経営の社長は自動車修理が得意だと早合点して採用を決めた。
車の修理は全くできない六子に出番が来る。ブレーキが効かずに町内を暴走する煙草屋のおばさんの自転車を修理するシーンだ。前ブレーキのロッドを六子が器用に調整する。前ブレーキの調整だけというのは、いかにもという感じもがするが、懐かしい情景だ。ロッド式ブレーキの自転車を見ただけで十分に感動する。
『続・三丁目の夕日』では、一平が大人用自転車に三角乗りをして登場する場面がある。フレームの間に片脚を入れる乗り方だ。今では知らない人が多いだろう。ほんの短いシーンだが、これだけで時代を共有できる。自転車に興味がなければ見落としてしまいそうだが、まちがいなく「昭和」の時代を表現するのに自転車が一役買っている。
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時代をとおり抜ける |
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時代を映している |
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時代を刻んでいる |
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時代を懐かしんでいる |
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自転車を透かして 時代を見ている |
『三丁目の夕日』は、私も全部観た記憶ですが、1作目が特に印象深く残っています。映し出されるものすべてが、昭和の子どもの頃へタイムスリップしていく。こんなもので遊んだなとか、当時の服装や髪形、近所の人たちとのやりとりなど、懐かしさがどんどん膨らんでいきます。
返信削除鈴木オートの一平君は、まさにMARIOさんではないかと思えてきます。キャストの役者魂にも惚れ惚れします。堤真一、吉岡秀隆は言うにおよばず、古行淳之介を演じた子役たちも、銀幕へと誘ってくれるすばらしい演技だったと思います。
昭和30年代の東京オリンピックを間近にした日本人の希望や高揚感が伝わってくる映画で、改めてこの3部作を観てみたい気持ちになっています。
それにしてもMARIOさんはこの映画の中でも、しっかり自転車を捉えているとは、さすが『日々是自転車』の創設者だと、感心するしかありません。
べーえんべー
映画やドラマに登場する自転車につい目がいってしまうのですが、自分が自転車に乗っていなかったら、こういう見方はしないと思います。
返信削除『三丁目の夕日』では、鈴木オートに入庫する自動車も、当時のものがこれでもかというくらい登場します。マツダのオート三輪やキャロル、スバル360にダイハツミゼット。ストーリーよりも登場する自転車や自動車に目を奪われます。
それにしても、映画の設定と同じ時代に、自分たちが乗っていた自転車はどうなってしまったのでしょう。中学校の通学用に買ってもらった自転車が今も残っていれば、きっと楽しいと思います。
映画でも日常の生活の中でも、自転車に焦点をあてて見ていると面白いものが見えてきます。年老いてからとはいえ、自転車に再び出会えたことはラッキーでした。