自転車に乗っていて気がかりなのは交通事故である。自転車による死亡事故も散見する。加害者にならないとも限らないが、交通弱者ということを考えれば被害に遭うリスクが高い。
先日、自転車の事故ではないが、思いもつかないような交通事故に見舞われた。何と、我が家の庭に車が乱入。招かれざる客もいいところである。丹精こめて手入れをしているつもりの庭の芝生も植木も、鉢植えの花もすっかり荒らされ残骸と化した。芝生の庭を横切る格好で飛び込んだ車は、庭の反対側にあるカーポートの柱にぶつかってかろうじて止まった。カーポートの柱と屋根は無惨に歪み、停めてあった車二台も被害を被った。災害に遭って家族や家を奪われた人の心痛には比ぶべくもないが、それでも痛手は大きい。
日曜日の夕刻、テレビのニュースを見ようとリモコンスイッチを手に取った瞬間に大音響が聞こえた。驚いて窓から外を見ると庭と玄関が見えるはずのところに車の屋根がある。すわ大惨事と表に飛び出した。あり得ないところに車の姿を見て愕然とした。何がどうなっているのかすぐには理解できない。車に乗っていた若者二人は奇跡的に無傷。車から這い出してきた。不幸中の幸いである。こういうと幸いが強調されるが、事故を起こした者も被害を被った私も大いに不幸である。
我が家は県道がカーブするその外側にある。これまでにも何度か車が外の塀にぶつかることはあったが、道路から2mも高い庭に車が飛び込むような大事故はこれまでなかった。よほどのスピードを出していたか、間違ってアクセルを踏みつづけない限り起こりえない事故である。
逢魔時(おうまがとき)、大禍時(おおまがとき)は、夕暮れどきの薄暗くなる時分、昼と夜の移り変わる時刻。古くは魔物に遭遇したり大きな災禍を蒙ったりすると信じられていた。今も夕暮れどきには危険が付きまとう。寂蓮(じゃくれん)は「さびしさはその色としもなかりけり槙(まき)立つ山の秋の夕暮れ」と詠み、西行は「心なき身にもあはれは知られけり(しぎ)立つ沢の秋の夕暮れ」と詠った。三夕の歌を引けば、我が家の状況は定家の「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋(とまや)の秋の夕暮れ」である。
通勤に自転車を使っていたころ、日の短くなる秋の夕暮れにはとりわけ気を使った。自転車や歩行者は、暗い道路を見ることよりも、車の運転者から見てもらうことが大事である。反射シールや点滅するライトを多用して、車の運転者から認識されるようにした。我が家の前のカーブも、少し手前から識別できるような改善が必要である。県道を管理する部署に申し入れはしたが、さてどうなることやら。壊れた2台の車の修理、玄関周辺や庭の修復にも時間がかかるだろう。事故の顛末を語るには時期尚早の感がある。
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あろうことか、庭の中に車が… 大ジャンプをしないと侵入できない??!! |
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| 見わたせば花も植樹もなかりけり… 野分のまたの日(台風の翌日)こそ、 いみじうあはれにをかしけれ『枕草子』 などと悠長なことは言っていられない |
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心なき身にもあはれは知られけり… 訪れの早い秋の夕暮れは自転車乗りにはリスクが大きい |
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| 「もののあはれは秋こそ勝れと人ごとに言ふめれど…」 見通しの悪くなる夕暮れには危険がひそむ 帰りを急ぐに越したことはない |
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とはいえ、秋には自転車日和が多い 少し冷たくなってきた空気のなか、爽快な走りを楽しむ |






これこそまさに青天の霹靂、人生のなかで滅多に遭遇しない事故でしたね。
返信削除人命には至らなかっただけでも幸いでした。一日も早い修復を願っています。
さて事故のことはおいといて、逢魔時から三夕の歌へと教養の高さが伺われる文章に引き込まれました。百人一首でうろ覚えの《秋の夕暮れ》ですが、これを今詠み返してみると、何となく意味が理解できそうな気がします。
13世紀につくられた歌が、現代の日本人にも十分感じるものがあるというのは、
いかに優れた作品かがわかります。高校時代、ぼーっと授業を受けていた自分を
恥ずかしく思います。
最近、下手くそながら川柳に手を出しているせいか、俳句や短歌にも興味をもち始めたところで、今回の三夕の歌はいい刺激となりました。
大事故が起きた逢魔時、黄昏時を舞台に、新古今和歌集や枕草子を引用し、最終的に自転車へとつなげるとは、MARIOさんうますぎます。いつも勉強になります。
次回はどんなネタが登場するか、楽しみにしています。
話題に一貫性がなくて、思いつきを書いているだけという気もしてはいるのですが、週に一度、何かを書いてみるのも一興、くらいのつもりですのでご容赦ください。
削除天気のいい日はほんの短い時間でも自転車に乗っていますが、自転車の話題に集約しきれないところが難点です。
ネタ探しをして自転車に乗るのではなく、乗っているとネタが向こうからやって来る…、というやり方でいきたいと思ってはいるのですが。