俳句の季語では、東風(こち)が吹き、春一番が来て、風は光りはじめ、やがて薫る。自転車乗りには最高の季節だ。青葉風、若葉風それに緑風。風のささやきが聞こえる。
『風のささやき』といえば、スティーブ・マックィーン主演、ノーマン・ジェイソン監督の映画『華麗なる賭け(The Thomas Crown Affair)』の主題歌である。原題は『The Windmills Of Your Mind 』。作曲はミシェル・ルグラン、作詞はアラン・バーグマン、マリリン・バーグマン夫妻。この曲はアカデミー賞主題歌賞を受賞している。映画ではマックィーン演ずるトマス・クラウンがグライダーで空を翔けるシーンでこの曲が流れる。
『風のささやき』の歌詞を自己流に意訳してみる。
渦を巻く輪のように\まわる車輪のように\始まりもなく終わりもない\まわり続ける糸車\山から転がり落ちる雪の玉\カーニバルの風船\まわる回転木馬\月にかかる暈(かさ)\文字盤をまわりながら時を刻む時計の針\世界は宇宙を巡る静かなリンゴ\あなたの心の風車もそうやってまわる (もともとのフランス語の歌詞では[私の風車])
自転車の世界にも通じる歌詞である。映画のシーンを観ると、曲名が「風のささやき」と訳されたのがよく判る。
映画のストーリーはというと、大富豪トマス・クラウンが趣味のようにして銀行強盗の完全犯罪を目論む。その犯罪を追うフェイ・ダナウェイが演じる保険会社の調査員との攻防に恋の駆け引きも絡む。
クラウン氏の趣味は、チェス、ゴルフから、ポロにグライダー。別荘ではサンドバギーを乗り回し、普段使いの車はロールス・ロイスのシルバーシャドー。ショーファードリブンではなく、自ら運転する。大富豪の趣味に自転車がないのが残念だ。マックィーンの個人的な趣味のオートバイも顔を出さない。富豪に自転車やオートバイは似合わないのだろう。
映画製作の裏話だが、主役のマックィーンはこの役柄がどうしても演じたかったらしい。自らの生い立ちの中で、感化院に入院させられた経験もある彼は、大金持ちの紳士が憧れだったのかもしれない。そういえば、他の主演作品では、囚われの身から逃げ出す映画が多い。『大脱走』、『ゲット・アウェイ』それに『パピヨン』など、どれも、脱出や脱獄が絡んでいるが、この作品は少し趣が違っている。
『風のささやき』というあいみょんの楽曲があるが、これは題名が同じでも全くの別物。1999年にピアース・ブロスナン主演でリメイクされた映画『The Thomas Crown Affair』も全く別物のようで、オリジナルには遠く及ばない。
大富豪の聞く風のささやきは、マックィーン演じるトマス・クラウン氏にお任せしておいて、ささやかな年金生活者の私は私流に、自転車に乗りながら、五月晴れの風のささやきに耳を傾けることにしよう。
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山の音 森の声 麦のざわめき 風のささやき |
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真っ新の田んぼを 吹きわたる 真っ新の風 |
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風に吹かれて 風に押されて |
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新芽若葉青葉 本日緑色の風 |
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風薫る私が私を映している |
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やがて風は 夕暮れの方角から 吹き始める |
私の高校時代は、劇場映画全盛の頃。四日市だけでも多くの映画館がありました。覚えているだけでも、グランド、シネマ、中映、三重劇、弥生館、宝塚、日活など。土曜日の午後、学校の帰りによく寄りました。いくつかの友の会会員になっていて、割引で安く観ていた記憶があります。
返信削除高校1年の時は、全校か学年で映画観賞会が駅前のグランドとシネマを借り切って「ベンハー」を観ました。その日は、入場口で出席をとり映画が終わったら流れ解散。とても気楽な一日でしたが、2年生3年生の記憶がないということは、教師には不評だったのか、たった1回きりで高校側がやめたのかもしれません。
しかし当時の映画ポスターや看板は、かなりのインパクトがあり、あれもこれも観てみたいという欲望に駆られたものです。
大学4年間は東京にいたので、就職で地元に戻ってからは職場の友達と再び映画三昧。土曜日は毎週のようにオールナイト。四日市の夜を彷徨う楽しい日々を送っていました。
『華麗なる賭け』は高校時代、グランドかシネマでやっていたと思います。あのポスター看板がぼんやりと記憶にあるような。
私には風のささやきを感じるロマンティストの要素はありません。ブログとズレたコメントになり、失礼しました。
べーえんべーさんは、私と同じ世代ということもあって、同じ時期に同じような映画や音楽にご縁があったようですね。ただ、私は、学生時代に東京へ出たという経験もなく、世間が狭い気がします。
返信削除それにしても、劇場を借り切って、『ベンハー』を観せてくれるとは、何とも粋な学校ですね。私の学校ではそういう気の利いた活動はなかったように思います。『ベンハー』は私も好きな映画です。クライマックスの戦車のレースシーンなど、今なら、さしずめコンピュータ・グラフィックで撮ってしまうのでしょうね。
自転車のネタに困ると、つい映画の助けを借りたりするのですが、自転車との付き合いより映画との付き合いの方がずっと長くて深いので、たまにはご容赦いただくことにしておきます。
自転車が活躍(?)する映画は、他にもいろいろとあるので、機会があればこのブログでも紹介できるかもしれません。ネタに困れば嫌でもそうなりますよね。