走行会の仲間四人で、街へ出かけてみようということになった。急な思いつきである。
60年前にも同じようなことがあった。中学生になったばかりのころだった。友だちと遊んでいて、誰が言い出すともなく、街へ行ってみることになった。そのときも四人だった。本気で街へ出かけるというよりは、自転車で走っているうちに、勢いで四日市の街まで行ってしまったのかもしれない。
街中をうろうろと走るうちに何も食べていないことに気がついた。パンを買って食べようということになった。ポケットの中を探っても、お金らしきものがない。「50円しか持ってないぞ」、「30円あるわ」。そんな会話をしたのではなかったか。みんなのお金をかき集めて、菓子パンを数個買った。パンを等分して食べ、公園で水を飲んだ。
帰り道は、本当に家に着くのかという不安や空腹と戦いながら必死で自転車を漕いだ。それでも、二度と街へ行かないとは思わなかった。今度行くときは、200円くらい持っていこうと反省した。自転車で田舎から街へ出た中学生には大冒険の一日だった。
無謀な中学生の遠出に比べれば今回は大人の走行会。道に不案内なわけではない。お金の入った財布もある。全員スポーツ自転車に乗っている。
ところが、街の中を四人が連なって走るのは意外に大変だ。信号ではぐれ、踏切の遮断機に分断される。人や車が飛び出す。前を行く者は後続の安全にまで気を配る。街の景色を見るよりも自分の後ろが気にかかる。一旦停止の場所で白バイに注意される一コマもあった。
懐かしい映画館の跡地やメンバーの一人が行きつけだった洋服店を訪ねた。無事に街乗りを楽しんだが、いつもの走行会よりはずしんと疲れた。イソップの寓話「田舎のネズミと町のネズミ」にならって、走り慣れた田舎道をのんびり走るが、今の自分たちにはふさわしい。とはいうものの、もう二度と自転車で街へは行きたくないかというと、そうでもない。
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街の記憶を いつ頃まで たどれるか |
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初めて一人で いった映画館 |
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行きつけの 角の喫茶店 |
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立ち読みが 常習だった 馴染の本屋 |
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灯ともしごろの路地 |
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街の記憶が 遠ざかったり 近づいたりして 通りを歩いている |