住人のいない長男の部屋の本棚で百科事典を見つけた。私が子どものころに買ってもらったものだ。『原色現代新百科事典』学研、全8巻。親にとっては高価な買い物だっただろう。長男に譲ったものが今も残されている。
古い百科事典で「自転車」の項を調べてみた。1ページを割いて自転車の説明がされていて、図が7枚、写真が1枚添えられている。
インターネットで検索すれば、こんなものまでという項目が解説され、動画まで見られる。自転車関連の記事や動画を検索すれば際限がない。今の子どもたちに百科事典はもういらない。
自転車の種類、歴史。現在の自転車、しかも売れ筋のものを並べたページ。そのカタログ。自転車部品、部品の交換方法。整備の概要と詳細、手順や作業を解説する動画。故障とその原因、修理の方法、修理の費用。
現実には存在しないことでも、チャットGPTが予想し類推して教えてくれる。思いつく限りのことから思いもよらないことまでインターネットで検索ができる。検索できないものを捜す方が難しい。それでも、検索できないものはある。
はじめて自転車に乗れたときのうれしさ、誇らしさ。自転車で走る爽快感。冬の朝の自転車の寒さ。夏の昼下がりの暑さ。寒さや暑さの対策は検索できても、厳しさやそれを克服する生の達成感は検索できない。
自転車関連本や映画の本編。これは著作権や売れ行きの問題があるからか、検索しても見当たらない。時間をかけて全編を読んだり観たりするほかない。それが真っ当な姿勢だ。
検索に頼らず、好奇心に任せて自分で試してみるのが面白い。子どものころの、親に隠れて自転車で遠くまで出かける密かな楽しみ、暮れはじめる帰り道の心細さ、帰宅後の言い訳。自分の記憶の中を検索しても、どこかにうずもれてしまっているキーワードが多い。
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今夜は膝の上で地図を広げて 明日走る道を捜している |
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ナビゲーションシステムで 検索して走れば 地図をたたんだままにして 決められた道を行く |
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自分の道を捜す楽しみを ナビの検索システムが奪う |
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私の地図を頼りに 辿り着いた場所は |
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私の記憶の中でしか 検索できない場所だ |
近くにあった本屋さんが、いつのまにかなくなりました。全国的に減少傾向で、自治体によっては本屋さんゼロのところも増えているようです。PCの普及で電子書籍を利用したり、調べたいものはインターネットですぐに確かめられる。
返信削除自分が子どもの頃は、わからないことがあれば本屋をはしごしたり図書館へ行ったりして目的の資料を探し出す。だから半日仕事のこともよくありました。それが今や、ワンクリックでヒットする時代。昔の人にとっては、味気ないというか達成感が得られないように思えます。
今回の『検索できないもの』は、思ってもみない発想で、興味深く拝見しました。
体験したときの感覚や、場面場面での心情などはそれぞれ各自がもっているもので、検索しても答えは出てきませんよね。
『私の地図を頼りに辿り着いた場所は、私の記憶でしか検索できない場所だ』
最後の写真2枚と添えられた言葉は、傑作だと思います。
ハンドルバーに遮られた太陽と、飛び立つ飛行機雲は何を物語っているのでしょう。
べーえんべーさんにご指摘いただいた通り、今回の最後の写真のハンドルバーの先から飛行機雲がのびています。
返信削除撮影したときには全く気がつかずにシャッターをきりました。特に意図したものではありません。あとで写真を確認して、飛行機雲の写っていた偶然に自分でも驚いています。
カメラの使い方などもネットではたくさん解説されていますが、下手な写真でも何枚か撮ることで、カメラの使い方が会得できることもあります。ネットで検索して判ったつもりになっても、体験してみると全く違うことも多いです。
何でも手軽に調べられるインターネットの利点も生かしながら、身体の動きが鈍くなりつつあるからこそ身体を使って調べてたり試したりすることを大事にしたいです。