冬をむかえる

冬をむかえる
'25.1.22 山を見て走る

2021年1月23日土曜日

アナログ派・デジタル派

  村の寄り合い、今風にいえば自治会の会議でのことである。開始予定時刻の10分ほど前に、年配の人たち全員が会場に揃っていたが、若い人が何人か来ていない。忘れているのではないかと心配した代表者が電話をしようとすると、「若い子は言われた時刻にしか来ない。まだ10分もある。催促するのは早い」と言う人があった。案に違わず、定刻には全員が揃った。アナログ派はゆとりを考える。若いデジタル派はピンポイントで考える。若い人はデジタル派という訳でもないので、「若い」という条件は省いてもいいかもしれない。

 デジタルにないのは、微細な変化の表現である。記憶も情報もありのままに留め、必要なものを瞬時に選び出すことはできても、人の想いに寄り添えるとは思えない。「うーん、どうしようか」と考える余裕を許さない。「ありそうだけれど、ないかもしれない」とか「ちょっと無理をすればでるかもしれない」という発想もデジタル的な思考にはないような気がする。

デジタルの基本は01か、ありかなしかの判断である。01の間を無数の点で埋めても完全には埋まらない。但し、大事な村の寄り合いには必ず参加するという「1」的で律儀な発想はアナログ派の高齢者に多い。

 最近の機械はほとんどがデジタル回路で制御され、動きもデジタル表示で確かめる。ハイブリッドの自動車などは機械なのか電気製品なのかよく判らない。同じ乗り物でも自転車だけはアナログのイメージが強い。脚の力の入れ具合で速度を調整する。乗っている姿勢を変えることで風の受け方を変える。路面の状況を自分の目と伝わる振動で感じ取り、加速したり減速したりする。デジタル回路を使った制御や表示は必要ない。自転車は実に身体の感覚と直結した乗り物である。

 「村の寄り合い」と同じように死語に近い「押しがけ」というエンジンスタートのやり方がある。バッテリーが上がった車やオートバイを人力で押して惰力をつける。その力でエンジンを空転させて、セルモーターを使わずにエンジンに点火する。ポンコツの車やオートバイしか乗れなかった私の若い頃には常套手段だった。電子回路で制御される今の車やオートバイには通用しない。自転車の漕ぎ出しは、常に押しがけをしているようなものである。0か1かではなく、0から1へ緩やかに変化しながら走り始める。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)が盛んに言われる。デジタル革命を信奉することで生活が豊かになるような言われ方である。日々の生活も知識や知恵までも電脳にゆだねて、効率や豊かさを求める。時代の流れに逆らう気はないが、自転車のように人に近い機械や人と人との間合いのようなアナログの機微は残しておきたい。

デジタルで表現するすれば
風景の正体は点の集まりである
滲みもくもりも迷いさえもない

点は線になり線は面になる
面は色になり光になり風景になる
目は生真面目に補正をしつづけている

神社仏閣、敬虔な祈り
デジタルはどう表現するのか

冬枯れの野、凍りつく寂静
デジタルはどう解析するのか












2 件のコメント:

  1.  土曜日の朝、パソコンを開いて『日々是自転車』を覘く。
     毎週、この日に更新されて、すでに69回。

     時々アーカイブで過去を振り返っていますが、どれも新鮮で同じネタがない。
    それも思いつきで書いたものではなく、読み手に分かりやすく丁寧に文章にしてあります。そのへんの週刊誌エッセイより遥かに上質で読みごたえがあります。
    最後に必ず写真と詩的添え書きがあり、タイトルをイメージ化してくれます。

     今回の内容は、アナログとデジタルについて「村の寄り合い」や「車の押しがけ」を私ども素人への撒き餌にしながら、MARIOさんが冷静に分析しています。豊富な知識や経験と判断力。詩人としての表現力がこのブログに重厚さを深めています。

     身のまわりにはデジタル化された製品が所狭しと並んで、次々とニューモデルが登場し、とてもついていけません。デジタルの正確さ素早さを体験するとアナログに戻れなくなります。少しの狂いも許さないが、故障すると大変。
    ターミネーターのように指示は的確にこなすが、融通は効かない。

     デジタルの長所に人間の『心』をもったようなアナログの温かさが注入されれば、未来は明るい気がします。

     この調子で70号、80号を目指してください。負担にならない程度で気楽に。

     書きたいときに書く。かつての文豪たちのように。

     でも点滴、石を穿つですね。もう発刊から1年です。すごい!

    返信削除
    返信
    1.  読んでいただくことを意識するよりも、折々の自分の想いを書きつけておけばいいと思っています。毎週1度の更新は、自分の整理箱の抽斗を増やしてくれます。いつまでつづくか判りませんが、もう少し先まで行ってみます。
       毎回、共感していただけるのがうれしいです。励みになります。

       ターミネーターもコロナウィルスには勝てないらしく、シュワルツェネッガーがワクチンを接種するニュースが流れていました。
       ターミネータもちょっと傷ついて狂いが出た方が面白いし、人間も年取ってちょっとゆるみが出た方がかえって冴えるのかもしれないですね。
       

      削除