冬をむかえる

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'25.1.22 山を見て走る

2022年2月5日土曜日

エロイカ

  エロイカといえば、ベートーベンの交響曲第3番を思い浮かべる。ベートーベンが敬愛するナポレオン・ボナパルトのために作った曲である。ナポレオンがフランス皇帝に即位すると「彼もまた俗物に過ぎなかった。いずれ自分が優れていることを誇示する暴君になるのだろう」と言って激怒したベートーベンは、楽譜の表紙を破り捨てたという逸話がある。真偽は不明だが、「ボナパルト」と名付けられたこの曲は、後に「シンフォニア・エロイカ(英雄的交響曲)」と改題されている。

 エロイカ。イタリア語で英雄を意味する。自転車のイベントにもこの「エロイカ」を冠したものがある。ツール・ド・フランスと並ぶ、有名なジロ・デ・イタリアとは趣を異にする「エロイカ」と名付けられたレースが毎年イタリアで開催される。

参加できるのは、1987年以前に製造された自転車に限られる。イベントの趣旨は自転車を楽しむこと。ロードレースのように順位は競わない。参加者は距離の異なる5つのコースから自分の実力に合わせたコースを選択する。10月に開催されるレースは、ガイオーレ・イン・キャンティ村をスタートし、同じ村に戻る。

コース途中のエイドステーションで振舞われる、トスカーナ産の生ハムやワインなどの軽食を楽しみ、疲れたら自転車を押してのんびり歩く。年代物の自転車がレース途中で壊れたら、力を貸し合って修繕をしてレースを続ける。自転車が走り抜けるトスカーナ地方の未舗装の白い道はかぎりなく美しい。

レースが誕生したきっかけは、素朴な砂利道の風景が失われることを憂える地元の有志が、往年の自転車レースの雰囲気を残そうとしたことだった。イベント名の「エロイカ」には、過酷な未舗装路を走破した往年のアスリートたちへの敬意がこめられている。

 エロイカのレースの模様は、インターネットの記事やYouTubeの動画で見ることができる。レースの主人公ともいうべき自転車が何とも魅力的だ。ヴィンテージバイクの典型、細いクロモリのフレームに使い込んだサドル。サドルバッグなどにも往時の粋が見てとれる。参加者には、乗っているヴィンテージものの自転車同様、年季の入った人が多い。自転車を心底楽しんでいる様子がうかがえる。

 ヴィンテージとは製品が作られてから最低30年を経過しているもののことをいう。私の愛用している自転車はまだまだヴィンテージの範疇に加えてもらえない。エロイカへの参加資格はない。レースには参加できなくても、いつか同じコースを自分の自転車で走って、レースの気分だけでも感じたい。今のところは、「エロイカ」に参加しエロイカになった気分で、トスカーナの風景に想いを馳せながら、いつもの道を走ることにする。いなべの道も満更捨てたものではない。


古い自転車も
新しい気持ちで乗れば
新しい走り方をする

歳を重ねたからといって
人間も自転車も
古びたわけではない

歳を重ねても
毎日毎日
新しい日が来る

次の日もその次の日も
新しい自分に出会える

歳を重ねながら
新しい自分になっていく

古い建物の前を
じいちゃんもそのまたじいちゃんも
通ったかも知れないが
初めて通るわたしには
新しい建物だ

古い公衆電話から
電話をかければ
じいちゃんやそのまたじいちゃんと
話せるような気がする


2 件のコメント:

  1.  今回のお話も興味がそそられ、それでもって為になる内容で、改めてMARIOさんのジャンルを超えた造詣の深さには感服します。

     エロイカという言葉は、若いころに自分が愛用していたオーデコロン。今や遠く彼方に葬られてしまったイタリア語でした。それが、ベートーヴェン交響曲第3番であったり、有名な自転車レースの冠名であったり、まさに目が点であります。

     温故知新ではないですが古いものを見て知って、そこから新しい創造を掻き立てる。

     写真に添えられた言葉は、いつもながらすばらしく奥が深いですね。
    古い建物や懐かしい景色に惹かれるのは、昔に戻りたいのではなく前進するためのエネルギーを蓄えている気がします。今回も楽しく拝見させていただきました。
     

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  2. いつもコメントをいただきありがとうございます。

    自転車を通して、いろいろなものがつながって、知らなかった世界に出会う。自転車のことばかり考えているようでも、そこから世界は広がっていくし、何歳になっても、新しいものに出会うことができる。ブログを書きながらそんなことを考えることがあります。

    古いものを見つけると、自分の若かったころのことを思い出して、それが活力になることがあります。
    古いものを使っていると、自分の若かったころの感覚がよみがえって、それも活力になります。

    歳月を経れば、年老いたり古びたりするのは当たり前ですが、そうなることも楽しみに変えられたらいいと思います。

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