冬をむかえる

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'25.1.22 山を見て走る

2022年2月19日土曜日

電子メールのこと

 かつては電子メールといっていた。エア・メールなどの方が市民権を得ていた時代だ。「電子」とことさらに言わないと何のことか判らなかった。今ではメールだけで通じる。英語と同じように動詞扱いでメールするともいう。私などはいまだにメールを打つというが、これは電報の名残か。

 内容が込み入っているメールの送受信には、パソコンのメールソフトを使うことにしている。これは手書きの書簡に近い感覚だ。ネットで買い物をしたときの領収書の受け取りや、知人に資料を送ったり、送ってもらったりするのにファイルや画像を添付することもできる。関係書類を同封するというのに似ている。スマホでは、年寄りには画面が小さすぎるし、文書の現実味に欠けるのでパソコンの方がよい。

 自転車の走行会もメールには大いに助けられる。前日に、「急ですが、明日走ります」とメールして「雨雲が来るので、走るのはやめます」と1時間前に中止することもできる。相手の都合で読んでもらえるので、電話のように相手を呼び出す必要がない。。仲間内では一斉に同じ内容を送信できるのも便利だ。集合場所や目的地を知らせるには、地図に場所を書き入れて、それを添付して送るという手もある。

 メールには弊害もある。喫緊の連絡が入る可能性があるので、スマホを手放せない。家に置き忘れて外出するようなことがあると落ち着かない。来もしないメールに縛られているようで窮屈な思いをする。

 メールでは簡潔に意図を伝えるのが目的なので、余計なことを省略する。まだるいことは書かない。時候の挨拶はもちろん、定型の拝啓や敬具、前略に早々は全く使われない。省略された文章を使うのが普通で、極端な場合は単語だけということもある。助詞や助動詞、接続詞や感嘆詞は置き去りにされ、敬語も無視される。まるで失語症である。 

    走行会の案内をメールすると「了解です」と返信が来る。正確には、「内容を了解しました。参加します(または、申し訳ないが欠席します)」というべきところだろう。「ご案内ありがとうございます」がその前にあってもよいが、仲間内ではかえって他人行儀か。返事を受け取った方も、「了解」は「走行会に『参加』」の意味と解釈して了解しているが、了解しているようで実は双方とも正確な結論に達していない

 自転車に乗っていて危険が迫れば、「危ない」と言っている暇はない。「あっ!」と叫ぶのが精一杯だ。登り坂でどうしようもなく苦しいときには「苦しい」と言えず「くっ!」という音だけが口をついて出る。単語にもならない、あっ、くっ、という音こそ魂に近い表現なのだ。メールで言葉を省略するのも、意志を速く伝えるための工夫かもしれない。メールにはメールの作法がある。ただし、電子メールで意思を通じ合うには、ことば足らずを補う忖度や斟酌が要るように思う。


電子の画面のなかに
短く切られてしまった
ことばが閉じ込められる

電子の画面のなかで
ことばは切り取られ
ことばは貼り付けられ
ことばは繰り返され
ことばが意味を失う

了解とは同意だと了解するか
了解だが拒否だと了解するか
ことばが波立って揺れている

電子の媒介に耐える
新しい意味をさがして
飛びたて、ことば

電子の介入に耐える
新しい意味をせおって
飛びつづけよ、ことば


2 件のコメント:

  1.  今回のお話は電子メールについての学習会、という印象です。
    なるほどと感心することばかりです。
     
     私もメールはガラケー時代から現在のスマホまで、長い間愛用させてもらってます。文字だけで自分の思いを伝えるのは、とても難しいです。送信してしまった後、相手がどう解釈しているか、余計なことを書いてしまったのかなど、気になることが多くなります。          
     面と向かって話せば、相手の表情や言葉の抑揚などで気持ちが伝わってきます。しかし、手紙とか文字で自分の想いを正確に伝えるのは、十分とはいえません。
     MARIOさんのような文学的才能があれば可能だと思いますが、勉強不足の自分には厳しいです。
    またもや『日々是学習』ですね。

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  2. べーえんべーさんのおっしゃる通りで、真意を伝えるのも、相手の真意を理解するのも、たいへん難しいことだと思います。

     ことばをたくさん使って書けば書くほど嘘っぽくなることもあるし、ことばを尽くさないと伝わらないこともあります。メールのことを書きながら、どうもまとまらないというか、未消化のところがある気がしていました。

     人に何をどう伝えるか、人の何をどう解釈し理解するか、まだまだ、毎日学習を積まないと見えてこないものがたくさんあります。ずっと見えないままで終わってしまうこともあるだろうと思います。

     自転車の乗り方や整備の仕方も、いつになってもわからないことが多いのですが、まぁ、諦めずに学習を重ねることにします。

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