冬をむかえる

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'25.1.22 山を見て走る

2025年5月17日土曜日

船で川を渡る

 「村の渡しの船頭さんは 今年60のおじいさん 年はとってもお船を漕ぐときは 元気いっぱい櫓がしなる ソレ ギッチラギッチラ ギッチラコ」

 子どものころに童謡『船頭さん』を聴いても、「村の渡し」の意味が判らなかった。「村の私のおじいさん」が船頭さんをしていると思っていた。60歳が年をとったおじいさんといわれた時代だ。渡し船は、子どもの知識の及ぶ範囲にも生活圏内にもなかった。

何年か前に、自転車で木曽川の左岸を走っていると、「愛知県営西中野渡船場」という道標が目に入った。昨年、知人と二人で同じ場所を通りかかったときには、事務所らしき建物を訪ねてみた。

県道に架かる橋と同じ扱いなので、誰でも無料で対岸の岐阜県側まで渡してもらうことができる。自転車も乗せられる。対岸からこちらへ渡りたい人は、備え付けの白い旗を掲げると、渡船が迎えに行く。何とも悠長なやり方だ。運行中と知って喜んだが、その日は生憎の運休日で乗せてもらえなかった。

 気候がよくなったので、前に一緒に行った知人と二人でこの渡し船で川を渡りに行った。木曽川。長野から岐阜、愛知を抜け、伊勢湾に流れる、総延長229㎞の一級河川。明治の時代には28か所もの渡船場があった。

 今ではただ一か所、西中野渡船場だけが残る。第五中野丸という小さな渡し船に自転車と一緒に乗船させてもらう。サイクリストの利用も多いのだろう。船頭さんにどこから来たのか、どんなコースを走って来たのかと尋ねられる。五月の風が川の上では尚更爽快。

 近々渡し場の上流に新しい橋が架かると、渡し船はなくなる運命かもしれない。風前の灯火。何とも惜しい。

 「雨の降る日も岸から岸へ / ぬれて船こぐ」おじいさんも、「みんなにこにこゆれゆれ渡る どうも御苦労さんといって渡る」乗客もいなくなるのはさみしい。この日、5時間80㎞の自転車旅に、5分間800mほどの小さな船旅が大きな跡を残してくれた。

はるばる街道を辿る

川をめざし
川を渡る

ここでなら渡れる
ここでしか渡れない

向こう岸へ行ってしまった人
向こう岸からやってくる人
帰り船を待ってもどる人

渡し船は訣別
渡し船は邂逅
渡し船ははたまた再会

2 件のコメント:

  1. べーえんべー2025年5月22日 17:07

     渡し船と聞いて連想したのは、細川たかしの『矢切の渡し』子どもの頃には橋幸夫が歌っていた『潮来の伊太郎』でしょうか。
     私の住んでいる地区には大きな河川がなく、テレビや歌で見聞きする渡し船に憧れのようなものがありました。

     MARIOさんが今回行かれた木曽川の渡し船は、もうここ1ヶ所しか残っていないのですね。写真で見る限り、日々の喧噪から離れてのんびり大河を渡っていくようす、それも自転車まで船旅をするのですからぜいたくさが伝わってきます。近くに新しい橋が造られるそうで、この渡し船が最後だと聞くと、それまでに私も一度乗せてもらいたいと思います。

     私の勤務地は愛知県なので、若い頃は東名阪や国道1号を使って木曽三川を越えていました。それが30代半ばに長良川大橋、立田大橋が完成して、一気に勤務時間が短縮されました。
     当時、木曽川と長良川を挟んだ輪中に立田福原分校という
    小学校があり、愛知県側の本校へ行くためには渡し船を使っていたへき地校指定だったと思います。しかし、木曽三川に大きな橋が架かったため、分校は廃止されたとききます。

     時代の流れとともに、生活様式や様々なものが便利になっていきますが、残しておいてほしいものもありますね。今回のお話は身近にあるものとして親しみやすく、楽しませていただきありがとうございました。

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  2.  前にこのブログにも書いた記憶がありますが、三重県と愛知県の県境を流れる3つの大きな川、三重県側から「い・なが・き」さん(揖斐川・長良川・木曽川)と覚えるといいと、息子が小学生のときに社会科で教えてもらったそうです。

     それぞれの川の堤防を走っていると、ところどころに「渡し跡」の石碑があります。昔は渡し船が行き来をしていた名残でしょう。

     最期に残った西中野の渡船。どうしても対岸へ渡るという用もないのに乗せてもらうのは気が引けましたが、渡し船にぜひ乗ってみたいと思い、申し訳なく思いながらも渡していただきました。

     まっすぐに渡れば川幅は300mくらいかと思いますが、地図にある渡船の航路はS字を描いていて800mくらいの距離になるようです。ほんの束の間、船の上で写真を何枚か撮るうちに対岸へ着いてしまいますが、その日1日、長旅をしたような気がするので不思議です。べーえんべーさんもぜひ一度お出かけください。

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