’26.5.8 一期は夢よ

2025年5月17日土曜日

船で川を渡る

 「村の渡しの船頭さんは 今年60のおじいさん 年はとってもお船を漕ぐときは 元気いっぱい櫓がしなる ソレ ギッチラギッチラ ギッチラコ」

 子どものころに童謡『船頭さん』を聴いても、「村の渡し」の意味が判らなかった。「村の私のおじいさん」が船頭さんをしていると思っていた。60歳が年をとったおじいさんといわれた時代だ。渡し船は、子どもの知識の及ぶ範囲にも生活圏内にもなかった。

何年か前に、自転車で木曽川の左岸を走っていると、「愛知県営西中野渡船場」という道標が目に入った。昨年、知人と二人で同じ場所を通りかかったときには、事務所らしき建物を訪ねてみた。

県道に架かる橋と同じ扱いなので、誰でも無料で対岸の岐阜県側まで渡してもらうことができる。自転車も乗せられる。対岸からこちらへ渡りたい人は、備え付けの白い旗を掲げると、渡船が迎えに行く。何とも悠長なやり方だ。運行中と知って喜んだが、その日は生憎の運休日で乗せてもらえなかった。

 気候がよくなったので、前に一緒に行った知人と二人でこの渡し船で川を渡りに行った。木曽川。長野から岐阜、愛知を抜け、伊勢湾に流れる、総延長229㎞の一級河川。明治の時代には28か所もの渡船場があった。

 今ではただ一か所、西中野渡船場だけが残る。第五中野丸という小さな渡し船に自転車と一緒に乗船させてもらう。サイクリストの利用も多いのだろう。船頭さんにどこから来たのか、どんなコースを走って来たのかと尋ねられる。五月の風が川の上では尚更爽快。

 近々渡し場の上流に新しい橋が架かると、渡し船はなくなる運命かもしれない。風前の灯火。何とも惜しい。

 「雨の降る日も岸から岸へ / ぬれて船こぐ」おじいさんも、「みんなにこにこゆれゆれ渡る どうも御苦労さんといって渡る」乗客もいなくなるのはさみしい。この日、5時間80㎞の自転車旅に、5分間800mほどの小さな船旅が大きな跡を残してくれた。

はるばる街道を辿る

川をめざし
川を渡る

ここでなら渡れる
ここでしか渡れない

向こう岸へ行ってしまった人
向こう岸からやってくる人
帰り船を待ってもどる人

渡し船は訣別
渡し船は邂逅
渡し船ははたまた再会

2025年5月10日土曜日

高齢者小説を読む

  「高齢者用…」「高齢者向け…」ということばや商品が溢れている。高齢者小説というジャンルらしきものまであるのは驚きだ。何でも「高齢者」という冠をつければ世にあふれる高齢者の目を引き、売れる、ということか。反発されて売れ行きが落ちることもあるだろうに。

 高齢者小説などといわれては読む気が失せる、と思っていたが、意外な遠回りをしてその高齢者小説というものを読むことになった。

 始まりは、月刊誌『文藝春秋』に連載されていた京極夏彦の『病葉(わくらば)草紙』という小説だった。京極夏彦といえばおどろおどろしい妖怪の登場する作品が多いと思って敬遠していた。ところが、雑誌に連載されている小説を読んでいると面白い。何が面白いかは省く。

 面白いので、同氏の『書楼弔堂(とむらいどう)4部作を読んだ。これも奇想天外で楽しい。やはり内容は省く。さらに同じ作家の『オジいサン』という小説を見つけた。京極作品にしては趣がちがう。726か月の益子徳一という人物が主人公だ。ここで高齢者小説に辿り着いた。内容は省く。

 かなり前に内館牧子著『終わった人』という小説を読んだことがある。同氏の高齢者小説4部作の第1作目という扱いだ。先月、『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』『老害の人』という残りの3部作をつづけて読んだ。

 笑わされたり妙に納得させられたりした。詳しい内容は省く。小説の題名からも内容はある程度推察できるだろう。

 とどめに、小説ではないが山極寿一著『老いの思考法』を読んだ。著者は長年ゴリラの生態を研究していた霊長類学者で、「老い」のとらえ方が独創的である。

 高齢者本にはまっていると、高齢者読書沼から抜け出せなくなりそうだ。ここらで一区切りつけたい。一区切りつけたあとで、高齢者自転車に的を絞って調べたり、高齢者自転車を自分で作っみたくなったりするのは、至極当たり前の成り行きかも知れない。

高齢者、小説を読む
高齢者、自転車に乗る

この場合
どんな小説を読んでもいいし
どんな自転車にでも乗れる

高齢者小説を、読む
高齢者自転車に、乗る

この場合
だれが小説を読んでもいいし
乗り手はだれでもかまわない

では、高齢にふさわしいとは
どういうことなのか

そんな定義は放擲して
小説は読めばいいし
自転車は乗ればいい

2025年5月3日土曜日

衝撃に備える

  一時期、衝撃吸収バンパーというものが流行った。自動車の前後に大きくて頑丈なバンパーが取り付けられていた。衝突事故の衝撃をやわらげ、乗員を保護するためのものだ。流行というより北米の規制に合わせたものだったらしい。

 大きなバンパーの突起は歩行者保護を優先するために姿を消した。安全性を高める技術が進み、自動車のスタイルも良くなった。

 自転車の場合、衝突の衝撃を吸収する装置はない。走行中に路面から伝わる衝撃をやわらげる装置もない。マウンテンバイクには前のフォークにバネが使われるものもあるが、普通はない。

 自転車のハンドルを替えると判るが、材質によっては小さな衝撃を吸収してくれるので乗り心地がよい。長距離を乗ると疲労の度合いが違う。ハンドルを長くすればしなりが出て衝撃をいなしてくれるが、無闇に長ければいいというものでもない。危険が伴う。

 サドルを支えるシートポストもいいものは衝撃をやわらげ乗り心地がよくなる。形や材質が振動や衝撃の吸収に影響する。衝撃に備える装置がない自転車でも工夫のしどころはある。

 小さな衝撃はさておき、衝突事故のような大きな衝撃が加われば、自転車はひとたまりもない。正面からぶつかれば身体は前方へ投げ出される。側面から衝突すれば横へ吹っ飛ばされる。むき出しの身体が路面にたたきつけられる。考えたくもない。

 考えたくはないが、どんなに恐ろしいことか想像だけでもしておきたい。若いころなら、身体を丸めて転がり、大きな怪我を避けることができるかもしれない、が、老体では無理だ。安全運転に徹するしかない。

 日々のショッキングな出来事から受ける衝撃に耐える力も年齢とともに衰える。日常の出来事から受ける心の衝撃も、自転車に乗っていて受ける衝撃も予測と対策が要る。できればうまくいなすことを考えておきたい。

いつの間にか新しい季節が来ていたことに
衝撃を受けているといえばそれは本当だ

もうこの歳になれば
衝撃を受けることなどないといえば
それも本当だ


いくつになっても
どこまで行っても

知らないことがあって
知らないものがあって
初めての出会いという
衝撃にも出会うはずだ

とはいえ積み重ねてきた衝撃には
うんざりしているところもあるのだ




2025年4月26日土曜日

ほんの些細なことなのに

  あまりこだわらなくてもいいようなことが、つい気になってしまう。年齢とともに感覚も身体の動きも鈍くなって、よくいえば鈍感力が身について、おおらかになれるはずなのに、まだまだその境地ではなさそうだ。

 先日、自転車のクランクと前3枚のギアを交換した。見た目は綺麗になり、イメージ通りに仕上がった。変速にも支障はない。支障はないが、チェーンの掛け替えがぎくしゃくする。

 一番高速側や低速側のギアを選択すると小さな異音が発生するのも気になる。チェーンと変速機(ディレーラー)のプレートがわずかに干渉している。気にしなければ聴き取れない程度の小さな音だ。走りに支障があるわけでもない、けれど気になる。

 そもそも、見た目を重視して、純正の規格と違うギアをつけたのが問題なのはわかっている。これまで使っていたギアは、前が3枚、後ろが8枚。8速用のチェーンを使う。

 交換した新しい3枚のギアは9速用のチェーンを使うもので、ギアの厚みが0.2m薄い。後ろのギアはそのままなので8速用のチェーンを使うが、交換した前のギアには全幅が0.6㎜ほど狭い9速用のチェーンの方がいい。

 ギアの歯数も違う。これまで3枚の歯数が483828だったものが、483626になった。わずかな歯数の差だが、小さいギアから大きいギアに掛け変えるときにこの差がストレスになる。出来れば前の変速機をキャパの大きいものに換えたいところだ。

 わずかな寸法の違いである。8速用と9速用のギアは厚みが0.2㎜、使うチェーンの幅は0.6㎜違う。無理を承知で交換したのだから多少の不具合は仕方がない。と思いながら、変速機のプレートの位置を内側と外側で細かく調整する。ワイヤーの張り具合も試してみる。

0.1㎜単位のこだわり。幸い老眼鏡はいらない。細かい調整は苦にならないが、ほんの些細なことを気にしている自分が笑える。

ほんの些細なことなのに
こだわりだしたらきりがない

風がはこんできた噂

街で出会った昔の知人

映画の中のワンシーン

ほんの些細なことなので
忘れてしまえばそれきりなのに

何故だか何度もふりかえる

2025年4月19日土曜日

自転車部品の交換事情

  タイヤ、チェーン、消耗は遅いがギアや車軸なども走行距離が長くなれば擦り減る。擦り減ったり何かの衝撃で壊れたりした部品は交換する。他にも部品を交換する理由がある。見た目、である。

 部品を交換すれば自転車が美しく見える、お気に入りのスタイルに変わる。いわゆるカスタム。見た目がよくなれば乗り心地も変わる。気分が乗り心地をよくしてくれる。

 13年乗ったクロスバイクは、昨年、ハンドル周りの部品を交換した。ハンドルの形や材質を見なおす。アルミ合金の削り出しのハンドルは形もさることながら美しさに惚れる。

 サドルを支えるシートポストも質感や光沢を考えてアルミの削り出しのものに変えた。ハンドルとシートの位置を改めて調整したし、部品の材質が柔らかになったせいか、乗り心地もマイルドになった。老骨用、になった。

 ハンドルを換えたら、次に気になるのは、これもよく目立つクランクセットだ。前のギアとクランクの部分も美しい光沢のある、しかも軽いものに交換したい。しかし、古いクロスバイクの前3枚、後ろ8枚のギアに合うクランクセットで、これは綺麗だと思うようなものは、ない。知らないだけか。

 東京のBLUE LUGというバイクショップが自社製作しているXMC triple crank setという製品を見つけたが売り切れて在庫がない。長らく欠品中になっていた。先日やっと入荷したので早速注文して手に入れた。

 見た目、よし。材質、満足。ではあるが、実は古いクロスバイクのクランクセットと規格が少し違う。3枚あるギアの歯数がそれぞれ2個少ない。しかも9速チェーン用で私のクロスバイクは8速用チェーンを使っている。

 多少の規格違いは変速機の調整で何とかなるという無謀な考えで取り換えた。結果は吉、変速に支障はない。動きは快調、見栄えも大化けした。クランクギアの歯数が少なくなって、少し踏力が軽くなるというおまけつき。老骨用自転車にまた近づいた。部品選びは見た目も大事。

規格があるから選ばれて

規格があるので外される

規格があるのは安心で

規格があるのが心配だ

品格本格適格合格
資格別格失格破格
規格に合わせることよりも
やりたいようにやることだ



2025年4月12日土曜日

自転車の図鑑

 図書館の児童書コーナーで、孫に『学研のまんがひみつ文庫』を教えてもらったことは前回書いた。文庫シリーズの中に『自転車のひみつ』はなかったが、同じ書架で森下昌市郎著、自転車文化センター監修の『ずかん自転車』(2023)を見つけた。

 面白そうなので借りて帰った。児童書を自分のために借りたのは初めてである。新しい図鑑なので内容が斬新、大人の自転車乗りでも読みごたえ十分だ。自転車の歴史、自転車のしくみ、現代の自転車、自転車競技の世界、自転車をもっと楽しむという5つの章に分けて写真や図をふんだんに使って解説されている。

 使われている自転車の資料が、トレック、コルナゴ、それにジャイアントなどの最新モデルだ。ブリヂストンの電動自転車あり、シマノの変速機あり、更には、パナレーサーのグラベルキングといった新しいタイヤまで紹介されている。

 トマス・スティーブンスが1884年に出発した自転車世界一周旅行の興味深いコラムがある。世界一周の途中、1886年には日本国内を長崎から横浜まで走ったとある。その影響を受けてか、中村春吉が1902年から世界一周の自転車旅をしたことも紹介されている。初耳で、深堀してみたくなる話だ。

 これまでに何冊か自転車のことを書かれた本を読んだ。自転車購入の手引き書のようなものから、整備マニュアル、勿論、自転車旅行記も読んだ。『ずかん自転車』は、自転車関連本の広範な内容を一冊にまとめている。しかも簡単明瞭、わかりやすいことに驚かされる。

 「自転車をもっと楽しむ」という最終章に、自転車のメンテナンスを取り上げてあるところが心にくい。メンテナンスを自転車の楽しみのひとつに数えるようになれば立派な自転車愛好家である。大人が読んでも目からうろこの落ちる一冊、児童向け図書、おそるべし


去年の桜
今年の桜

千年前の桜
千年後の桜

同じ場所に
同じときに
咲きながら

咲き方を変えて
見せ方を変えて

来年も春が来ることを
しっかり約束している









2025年4月5日土曜日

町の図書館にて

  春休みの1日、小学3年生になる孫が遊びに来ていた。親は仕事なので、春休み中は終日学童保育所でお世話になっている。保育所を休んでばあさんとじいさんの家に来れば気儘に過ごせるが、友だちがいないので退屈そうでもある。

 彼と一緒に近くにある町の図書館へ行ってみた。学校の図書室で人気の本だといって『学研のまんがひみつ文庫』を教えてくれた。企業や各種団体が協賛(タイアップ)して作られたまんがシリーズで非売品である。小学校の全学年対象の内容で、全国の公共図書館や小学校の図書室に無償配布されているらしい。

 シリーズ第1巻は日本マクドナルドが協賛した『ハンバーガーのひみつ』。最新刊の第218巻は『馬のトレーナーのひみつ』(日本調教師会)、第219巻『気象情報のひみつ』(日本気象協会)など、内容は変化に富んでいる。

 『自転車のひみつ』がないかと探すのは当然の成り行きである。未来の車(トヨタ自動車)や電気で走るクルマ(三菱自動車)はあっても、自転車関連のものが見当たらない。

 「自転車」の文字を背表紙に見つけたら、第49巻『自転車駐車場のひみつ』だった。財団法人自転車駐車場整備センターが資料を提供している。自転車の駐車場整備センターという公益財団があることを知るだけで面白い。『工具のひみつ』は工具メーカーのTONE、『八ッ橋のひみつ』はもちろん株式会社聖護院八ッ橋総本店が資料提供者だ。子どもの興味を満たそうとするテーマがシュールだ。

 今のところ、孫は自転車にあまり興味がない。小学校へ入学したときに、解体屋で1,000円で買った自転車を新品のように組み直したので、喜んで乗ってはいるが、いまひとつ食いつきがよくない。図書館の本にふれ、ものごとのひみつをのぞき関心を深め、いずれ自転車にも目覚めてくれると嬉しいが、今は何も言わないことにした。この日、彼は『まんがひみつ文庫』は選ばず、『ざんねんないきもの事典』3巻を借りて帰った。

梅の花のひみつ

桜の花のひみつ

図書館の書架を抜け出して
青空の下へひろがる
ひみつの連鎖

自転車のひみつをさがす

ひみつを解き明かすために
走りつづける