就寝儀式または入眠儀式という行動がある。乳幼児によく見られるもので、心と体を眠りに移行し、安心して眠りにつくための行為といわれている。歌を歌ってもらったり絵本を読んでもらったり、お気に入りのぬいぐるみを抱く、大切にしているおもちゃを枕元に置くといったものもある。快眠を得る方法として、大人にも就寝儀式が有効らしい。
就寝儀式は、1日の活動を終える儀式だとすると、自転車に乗る前の出発の儀式は活動を始めるための儀式である。自転車で出かける前には、きまって出発の儀式をする。儀式と呼ぶほどのものではないかもしれないが、やっておくと安心できるところは就寝儀式と同じである。
私の出発の儀式は、まず自転車を倉庫から出して、タイヤの空気を入れること。前日にも同じ自転車に乗っていて、それほど空気圧が減っていないときも、必ずタイヤに指定圧の空気を充填する。スポーツバイクのタイヤは、かなり空気圧を高くするので、空気入れのハンドルを押す力が要る。これが身体を動かし始めるのにちょうど良い運動にもなる。空気を入れた後、タイヤを1回転させて見ておくだけで、一番多いトラブルであるパンクの未然防止にもなる気がする。
次に、前と後ろのブレーキレバーを交互に掴んで、車体を前後に動かしてみること。ブレーキの効き具合や、ブレーキレバーを握った感触を確かめる。右と左(前と後ろ)のブレーキレバーの握り具合がいつの間にか変わっていることもある。ブレーキワイヤが緩んでいようものなら命取りになる。安全のための儀式である。
もう一つ、愛用しているサイクルコンピュータを取り付け、工具セットや飲み物を積む。全部揃ったら、前輪を少し持ち上げて、軽く地面に落とす、次は後輪。車体や取り付けたものが緩んでいないか、これで確認できる。
空気を入れる。ブレーキレバーを握る。車体を軽く揺らす。何のことはない、簡単な始業点検で、儀式にしておけば忘れることがない。強迫性障害を疑うほどこだわることでもない。やらなければ気になるくらいでよい。
かなり前になるが、某有名メーカーの自転車のフロントフォークが折れて、深刻な怪我につながる事故があった。サスペンションのついたフォークで、内部のバネが腐食し、前触れもなくフォークが抜け落ちた。前のめりに転倒したライダーは頚椎を損傷し、その後車椅子生活を余儀なくされた。メーカーの責任ではあるが、もしも気の毒な被害者が出発の儀式を行っていれば、事故は避けられたか、あるいは重大事に至らなかったかもしれない。
出発の儀式を行っても、走行中に異常が発生しないとは限らない。儀式を済ませたからといって楽観はできない。走り出せば、季節の移り変わりや風のさわやかさを全身で感じることになるが、自転車の調子も感じていたい。自転車には自動車や大型オートバイのように定期点検や車検がない。それだけに、出発の儀式や走行中の自転車との対話を大事にしたい。
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雨が降り出しそうな日だけれど 出発の儀式をすれば好転するかも |
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車から自転車を降ろして その後はやはり出発の儀式 |
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出発の儀式はすませた 自転車もやる気になった |
近くの公園まで散歩代わりに走るときも 家を出るときにはタイヤの空気を入れた |
朝早くから知らない町へ出かけるときも 出発の儀式はすませてきた |
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近所のチャリ友とちょっと遠出 みなさんそれぞれに出発の儀式があるだろう |
番外: 10年前まで勤務した学校にて 自転車の点検をする生徒たち 出発の儀式ではなく年中行事 安全に自転車に乗ってほしい |
さすがMARIOさん、敬服します。自転車の出発儀式に限らず、これは貴方の性格だと思います。何事にも石橋をたたいて渡り、念には念を入れる心構えが、そうさせているのだと思います。
返信削除恥ずかしながら私はまったく逆で、何事も一か八か、カッコよく言えば当たって砕けろタイプ。自慢じゃないが、中学時代も自転車の点検は一度もしていません。
高校時代はバイクを乗り回していましたが、タイヤの空気圧もみた記憶がありません。
よく事故が起きなかったなと、今更ながら驚きです。
出発儀式とは関係のない自己責任の事故(衝突or転倒)はチラホラあり(笑)。
ここ数年クロスバイクに乗り始めてからは、寄る年波も考えて出発前には必ずタイヤに空気を入れてブレーキチェックなどをするようにしています。
これは自分として長足の進歩ですが、このブログを拝見することで自転車に対する構えが随分変わりました。MARIOさんのおかげです。
この調子で自転車ライフを満喫したいです。
『日々是自転車』もあと少しで100号に到達しますね。楽しみにしています。
コメントありがとうございます。私は、おっしゃっていただくほど几帳面でも入念でもありません。
返信削除職業柄、といっても昔のことですが、生徒さんたちに注文をつけたりして、それを自分がやらないのはいかがなものかと思っていました。人に言ったことは、自分もやる、せめてやろうと努力はする、と決めていたらいつの間にかやることが増えただけかもしれません。
石橋もコンクリートの橋も渡る前にたたかないと思います。朽ちていそうな板の橋ならたたくかもしれません。高い釣り橋は怖いので初めから渡りません。けっこう、ちゃらんぽらんなところもあると自分では思っています。
みなさん、これだけは、と大切にされているものがあると思います。「重点項目」が人によって違うだけかもしれません。
ただし、自転車には長く安全に乗りつづけられるよう気をつけることは、私も含め、みなさんの「重点項目」にしていただきたいです。