『スマホ脳』という本を読んだ。書店で平積みされた本の帯に「スティーブ・ジョブスはわが子になぜiPadを触らせなかったのか」・「幼児にタブレット学習は向かない」・「集中力を取り戻す具体的な手段」と書かれたキャッチコピーが目にとまり、思わず購入した。
学校では小・中学生にタブレットが配布されていると聞くが、よもや紙の教科書や、黒板とノートが置き去りにされるようなことはないだろう。電子ブックでは読書がどうも面白くないことを実感しているので、タブレットを多用することには疑義がある。
タブレットを授業に使う効果については今後の検証が必要で、それには何年もかかるだろう。その間に、子どもの時間が浪費されないか心配だ。授業を聞くふりをして教科書やノートの隅に鉛筆で落書きをしたり、窓の外を眺めながら詩を創って書き留めたり、そんなことができない授業には創造性も魅力もない。
『スマホ脳』の著者、スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセンは、スマホやタブレットの弊害について、様々な事例や調査結果をもとに詳述している。10万年前から進化し続けた人間の脳はスマホに適応しきれていない。スマホの長時間使用が、鬱や引きこもりの原因になっているのか、鬱や引きこもりがスマホの長時間使用につながるのか、いずれにしても、スマホから解放されれば症状は改善するという。
本を読むことや手で文字を書くことが長期記憶を形成するが、バーチャルな学習ではそれが保証されない。フェイクニュースが拡散し、責任をもって編集されたニュースから遠ざかる。デジタル社会が対人関係における感受性や共感的配慮を低下させているという深刻な調査結果も引用している。スマホやタブレット、PCのスクリーンから離れ、体を動かすことでストレスが解消し集中力が高まると著者はいう。そのメカニズムについても説明している。
自転車に乗ることは、スマホ脳を矯正するのに打ってつけの方法ではないかと思いながら、この本を読んだ。自転車に乗っていると、身体を動かしながら考える。バーチャルではなく、気温の変化を感じ、風の流れを読む。カーブを曲がる速度を調整し、坂道を下るときにはブレーキのタイミングを計る。危険を予測し回避する。脳と身体の動きが直結している。
スマホを使っているときの脳の働きとは全く違ったものであることは、脳科学や心理学の専門家、AIの研究者の説明をまたなくても見当がつく。自転車に乗っているときに活動している脳を「自転車脳」と呼んでいる研究者がいるかどうか判らない。もしも、専門家が「自転車脳」を分析すれば、スマホ脳とは明らかに違うだろう。ストレスのない健全な活動が見られるのではないかと素人ながらに考えた。
※『自転車脳の人々』(2013年)というムックが辰巳出版からに発行されていることが判った。上には上があり、先には先、前には前に人がいるものだ。但し、この本の内容は何とも気楽で、『スマホ脳』と対をなすとはいいがたい。
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愛車ラレーのカタログを スマホ脳がダウンロードする 絵に描いた餅ならぬ自転車 |
自転車脳は考える 現物にふれてみれば 質感も乗り心地もよく判る 楽しさや嬉しさもよく判る |
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スマホ脳が遠出を記録する コース、スピード、獲得標高まで記憶する 満足感も疲労感も感じていない |
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自転車脳は考える あの橋を渡ってしまうか もう少し先まで行くか |
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自転車脳は考える この橋を渡ろうという決意 橋の上の爽快さと高所の恐怖 |
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自転車脳は考える やっとここまで来た 駅舎があいにくの工事中 また来る理由ができた |
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突然出会う看板に スマホ脳は混乱する 自転車脳は感動する 鋼鉄製自転車 全回転部防水式自転車 山口の自転車 |
今回のお話もとても勉強になり、ありがとうございます。
返信削除私もときどき電子書籍なるもので小説やエッセイを読んだりします。中身は同じなのに、味わいが全く異なります。本だと1枚めくるたびに、作者の思惑や読んでいる自分自身の思考に遊びのような間合いを感じますが、電子版はスワイプでページが進むという便利ではあるけれど、機械的な味気無さが残ってしまう感じ。これがスマホ脳なのでしょうか。
ここ最近、学校でも生徒一人ひとりがタブレットを与えられて授業を受ける方式が進んでいるようですが、教師とのつながりや関わり方も変化していくのが心配です。
スマホ脳の弱点を自転車脳がカバーし、人間らしさを失わない歯止めとなる。
お見受けするところMARIOさんはPCも堪能なのに、人一倍人間くささも持ち合わせていらっしゃるのに驚くばかりです。
今回も高尚な内容でしたが、簡単にいえば自転車に乗ることで生み出される効果は心身の健康など計り知れないものがあるということでいいのでしょうか。
いつもながら、くどくどと書いた文面にお付き合いいただき、的を射たコメントをありがとうございます。
返信削除人間くささといえば、本にも匂いがあります。電子書籍と紙の本の圧倒的な違いは、新刊でもどこか懐かしさのある「本の匂い」かもしれません。本を読みながら、思いついたことや、気に入らないことをページに書き込むという楽しみも、紙の本ならではというところがあります。
『スマホ脳』、お時間があれば一読されることをお勧めします。